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はじめに

おばんです!!Yu-daiです!
自分自身の知識の研鑽や日々のアップデートを目的に
新人セラピストや学生向けに
”脳卒中”や”急性期におけるリスク管理”などを中心とした
知識の発信をさせていただいています!!
知識発信はBlogが主ですが、TwitterやInstagramもやっています!!
今回は、先月の6月23日にプレリリースされた
”半側空間無視の新しい臨床評価手法の開発”
この研究成果の概要を
自分自身が理解できるように少しブログでまとめていこうと思います!!
実際の原文は以下になるので読みたい方はそちらへ!
http://www.rehab.go.jp/hodo/japanese/news_2021/news2021-01.pdf

内容自体もどちらかというと難しい部類だろうからね…
新人の頃から”半側空間無視”に対して知見を深めている人も少ないと思うから仕方ないよ!
僕のブログでも半側空間無視についてまとめているので、
半側空間無視についての基本的な情報を知りたい方はまずはそちらがオススメ!!
半側空間無視は、歩行やADLなどに大きな影響を与え、
回復期以降も退院や社会復帰における阻害因子になる可能性があります!
この記事で、プレリリースされた新しい知見に触れて
”半側空間無視”への理解を少しでも深めましょう!!
半側空間無視に対する従来の評価・治療における課題

”半側空間無視の新しい臨床評価手法の開発”をするにあたって、
半側空間無視の従来の評価・治療について課題点をこのように説明されています!
脳卒中後のリハビリテーションでは、 紙面検査や行動観察によって無視症状についての評価を行うことが一般的ですが、検査実施に時間を要すること、患者側に集中力や認知的負荷を強いることなどの問題点があり、加えて重症度の高い患者では評価が困難であるなどの限界点があります。
脳卒中後に生じる高次脳機能障害『半側空間無視』 のあらたな評価手法を開発
半側空間無視に対する従来の評価方法としては…
半側空間無視に対する一般的な紙面検査として
行動性無視検査(Behavioral Inattention Test:BIT)
生活障害評価尺度(日常生活上に現れる無視症状の評価)として
the Catherine Bergego Scale (CBS)
より簡便的な評価としては
- SIAS:視空間認知検査
- 線分二等分試験
- 抹消試験
- 模写・描画試験
これらの評価が一般的に使用されていますが
以下の理由により実際の臨床現場での測定には限界があります!!
- 実施時間が長い(患者への負荷が高い)
- 理解能力・注意機能の程度によっては測定自体ができない
- 半側空間無視の重症度が高い患者には実施できない
- 筆記検査や口頭での検査では症状の特性を捉える上で限界がある
実際の臨床において、
”この患者さんは〇〇だから測定できない”という場面は少なくないと思います!!

あー、確かに
精査はできないけど…っていう会話を聞くことありますよね!
それに加えて、”空間無視”という名前とおり…
”半側空間無視”とは、
空間上の物体や事象を認識できなくなる症状
こういった病態ということもあり、
紙面検査や言語回答での評価では限界があると言われています!!

だから、この研究チームの先生方は
新たな評価方法を開発しようとしているってことなんだ!!
実際、BITの得点がカットオフ値より高い患者でも
一方で、ADLの拡大に難渋するケースがあるという事は少なくありません!!
急性期の病院に籍を置いている自分でもこのように認識しているので
回復期などの方はより実感しているのではないでしょうか?

新しく”半側空間無視”の評価方法を開発する意義がよく分かりました!!
それでは、
半側空間無視における新たな評価手法について
どんなものなのかまとめていきましょう!!
半側空間無視の新たな評価手法はPCモニターを用いた”視線分析”
見出しにもあるとおり、新たな評価手法というのは…
PCモニターを用いた
”視線分析”
このような手法になります!!

視線分析ってどんな方法なんですか?
それでは、説明していきますね!!
詳細は下記の引用先から読んでみてください!
まず、”右半球損傷のある174人”の患者を対象にして以下のテストを実施しました!
患者は、PCモニター上で2D配置(7列×5行)の円形ターゲットに向けてタッチパネルベースのポインティングタスクを実行するように求められ、各オブジェクトへの反応時間が記録されました。注意欠陥と無視症状の側面を評価するために、すべてのオブジェクトの反応時間の合計平均(RTmean)と左右のスペースの比率(L / Rratio)をそれぞれ計算しました。
Takamura Y et al:Interaction between spatial neglect and attention deficit in patients with right hemisphere damage Cortex 141: 331-346, 2021.


つまり、まとめるとこういうことのようです!!
- PCモニターに7列5行の円形ターゲットが表示される
- 患者には点滅するターゲットをタッチする課題が課せられる
- 点滅刺激に対する反応時間から2つの評価変数を算出する
✔︎RT mean(全ターゲットの平均反応時間)=”注意障害”の指標
✔︎L/R ratio(左空間/右空間の反応時間比)=”無視症状”の指標
つまり、新たな評価手法というのは
視線分析で…
RT meanとL / Rratioの間の相互作用の特徴づけをすること
これによって
”半側空間無視の病理学的特徴”について理解できるのではないか?
と示唆しています!!

全般的注意障害と半側空間無視は切っても切れない関係!
症例によっては複雑に絡み合って病態理解に苦労するからその関係が分析できるのはすごくありがたいね!!
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半側空間無視は2つの評価変数によって6つのサブタイプに分類できる


その特徴づけっていうのはどういう感じのものなんですか?
それでは、説明に戻ります!
研究チームは、2つの評価変数を使用し、以下の工程を行いました!!
- 2つの評価変数の関係から異なる”6つ”の症状特性に分類
- 症例の経過を蓄積して”回復過程の特徴づけ”を行なった
- 注意障害と無視症状に関連 する脳領域の特定した
以上の3つです!!
まずはサブタイプについてまとめていきましょう!!
USN患者における注意欠陥とネグレクト症状の相互作用の可能性をさらに明らかにするために、RTmeanとL/Rratioを用いてクラスター分析を行った。GMMを用いたクラスター分析では、6つのクラスターが分類されました。24個の候補モデルから、VEVモデルを用いた6つのクラスは、統計的にも理論的にも高い妥当性が認められました(BIC: 458.856, ICL: 496.468)
Yusaku T et al:Interaction between spatial neglect and attention deficit in patients with right hemisphere damage Cortex 141: 331-346, 2021.
6つのサブタイプは、
RTmeanとL/Rratioを使ってクラスター分析を行った結果で分類されました!!
クラスター分析とは、異なる性質のものが混ざり合った集団から、互いに似た性質を持つものを集め、クラスター(集団・群etc.)を作る方法です!!
では、どのような特徴に分けられるか少しまとめました!!
- サブタイプ1:平均反応時間が著しく延長(主に左空間)、BITスコアは最も低い
- サブタイプ2:平均反応時間は延長、BITスコアは2番目に低い
- サブタイプ3:左空間に対する反応時間が延長、BITスコアはcut off値程度
- サブタイプ4:平均反応時間は2に似ているが、無視は認めない
- サブタイプ5:平均反応時間がやや延長、無視は認めない
- サブタイプ6:明確な無視症状や注意力の低下は認めない

サブタイプ1が最も重症というわけですね!!
半側空間無視はサブタイプ毎に回復過程や脳損傷領域に違いがある
研究チームは
さらにこれらのサブタイプごとに回復過程に特徴がないかを検討しました!!
上で紹介したサブタイプに分類される典型的な症例を取り上げて、
リハビリ実施前後での…
- 反応時間の特性に特徴的なパターンがないか
- どのような症状軽減の経過を辿るのか
以上の点について検討して、
実際にそれらの傾向について示すことが可能になりました!!
1)当初クラスター1に分類されていた患者は、クラスター2(11人中7人)、クラスター3(11人中1人)、クラスター4(11人中2人)と移行していった。クラスター1に分類されていた患者のうち、1名は同じクラスターに留まった。(2)当初クラスター2に分類されていた患者のほとんどが同じクラスターに留まったが、ベクトルの方向がすべての患者で左か下に向かった(5人中1人がクラスター6に移行)。3)当初クラスター3に分類されていた患者のほとんどが同じクラスターに残った。(4)最初にクラスター4に分類された患者の全員がクラスター5に移行した。
Yusaku T et al:Interaction between spatial neglect and attention deficit in patients with right hemisphere damage Cortex 141: 331-346, 2021.
まとめるとこんな感じです!!
- サブタイプ1→ほとんど2 ※3・4へ移行する場合や移行しない場合もある
- サブタイプ2→ほとんど同じサブタイプに留まる
- サブタイプ3→ほとんど同じサブタイプに留まる
- サブタイプ4→サブタイプ5へと移行する
また、サブタイプ毎に
それぞれが異なる脳領域に損傷を持っていることも示されました!!
解析により注意障害・無視症状に固有の脳領域の特定も検証した
上の項にも関連してきますが
研究チームは、半側空間無視における症状の特性は異なる脳損傷領域によってもたらされることを予想し、症例を統計解析を行いました!
その結果…
- 注意障害
- 半側空間無視
それぞれに固有の脳領域が関連することを確認しました!!
まとめてしまうと…
- 注意障害:主に前頭葉・側頭葉・後頭・前頭領域を繋ぐ経路(”下前頭後頭束”)が関連
- 半側空間無視:頭頂葉と前頭葉を結ぶ神経経路である”上縦束”が関連
側頭葉と頭頂葉の皮質領域が関連(BITで特徴づけは可能な能動的注意)
それぞれこのような特徴があるということが分かりました!!
(より詳細に知りたい場合には文献を読んでみてください!)

上縦束はその他の研究でもUSNとの関連が指摘されているよね!
USNについて勉強している人なら最近よく耳にするはず!!
もちろん、関連性が高いと言っても
症例毎に微妙に傾向が変わってくる可能性は否定できません!!
やはり、大事なのは臨床症状も踏まえた病態解釈だと思うので
先ほど紹介した評価や6つのサブタイプの分類なども含めて今後の臨床に応用していった方が良いかと思います!!

確かに、症状特性が6つに分かれるような障害に対して、脳画像の分析だけで病態を把握することは不可能に近いですよね…
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
今回は、”半側空間無視の新たな評価手法”に関するプレリリースを
自分が理解できるよう記事にさせていただきましたが…
皆さん、いかがだったでしょうか?
新たな評価手法を実施するために評価用のモニターなどが必要になるといったコスト面については一旦置いておきますが、従来の机上検査だけではできなかったことがこの検査ではできるようになりそうです!!

今後は、BITでは障害を拾い切れなかったような方も見つけ出せて介入ができるようになるんだろうね!!
この新しい評価手法が導入できなかったとしても、
半側空間無視には6つもサブタイプが存在し、それぞれ回復過程が違うという知識があるとないとでは、病態への理解度も変わってくると僕は思います!
一応、評価用モニターを販売している会社のホームページのURLを貼っておきます!
〈〈ATTENTIONソフトウエアを開発している会社はこちら!〉〉
半側空間無視自体、まだよく分からないよ〜という方は少しずつで良いので理解していけるように頑張りましょう!!
筆者も、半側空間無視に興味を持って勉強を初めてから3年経ちますが
この病態を十分には理解できていません…笑
互いにより半側空間無視への理解を深め
患者さんに還元できるようこれからも頑張っていきましょう!!
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- 表現が分かりやすく、初心者向けの内容で読みやすい!!
- 責任病巣もまとめられており、脳画像とリンクさせやすい!
- 半側空間無視以外の幅広い高次脳機能を網羅している!

この書籍は、高次脳機能についての勉強の取っ掛かりにはおすすめだよ!!
一方、少し優しめの内容なので勉強を進めていったら少し物足りないかもしれないので本腰を入れて勉強したい人は次に紹介するような書籍をおすすめします!
実習中の高次脳機能の基本的な病態の理解には
非常に有用な書籍だと思うので、ケースが高次脳機能障害を有している場合には手元にあると良いかもしれませんね!!
- USNに加え、様々な高次脳機能についての情報が載っている
- 脳部位も含めて解説されており、臨床にも直結しやすい
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脳卒中リハに携わっていて知らない人はいないかと思います
内容は正直、はじめは難しく感じると思います!
ですが、この書籍の内容は数多くの文献から最新の知見を引用し
僕らに正確で確かな情報を提供してくれます!!

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どれも買って損しない内容ですので、ぜひチェックしてみてください!
文章を読むのが苦手な自分としては、スルーしたくなっちゃいます…笑