はじめに
前回は脊髄損傷の障害像についてを中心にまとめました!
今回は急性期における脊髄損傷患者に対するリスク管理について学んでいこうと思います!!
脊髄損傷患者におけるリスク管理を学ぶ上で意識しておきたい点として…
自律神経障害
これがポイントになると思っていてください!
普段私達が無意識で生命を維持できているのはこの”自律神経”によるものが大きい!!
前回の記事で用いた自律神経の効果です!

これらの各器官において
自律神経が反射性の調節を行っているから私達は活動できています!
「反射」とは、
田島 文博 :自律神経障害 NPO法人日本せきずい基金 2005年刊
生体の内外における刺激に対してほぼ一定の反応を誘発するための仕組み
- 血圧の維持
- 消化管の運動
- 消化液の分泌
- 末梢の血流調節
- 心拍数の調節
- ホルモン分泌
- 腎臓での尿生成
- 膀胱からの排尿
- 体温調節(発汗も含む)etc
挙げていくとキリがありませんが、
このように自律神経による反射性の調整は私たちの生命維持には非常に重要なものになっています!
自律神経による調整の重要性が分かったところで、急性期における脊髄損傷患者に対するリスク管理についてまとめていきましょう!!
// /脊髄損傷急性期リスク管理①【自律神経過反射】

脊髄損傷患者に介入している最中に…
- 頭痛
- 発汗・発赤
- 胸部違和感
- 悪心・嘔吐
これらの症状が出現したことはありませんか?
そんなときにバイタルサインをチェックすると、
高血圧・徐脈を認めます!
急性期においては起立性低血圧の次くらいに多く遭遇する印象!!
この現象のことを
”自律神経過反射”
このように呼びます!!
- 麻痺側への冷刺激・熱刺激、痛み刺激、膀胱充満・拡張、便秘などによって生じる
- 頭痛、発汗・発赤、胸部違和感、悪心・嘔吐などの症状を認める
- バイタルを測定すると、高血圧・徐脈を呈している
- T5~T7レベル以上の脊髄損傷者で認める(T5以上と定義する文献や書籍が多いが諸説あり)
- 放置すると脳出血に至る場合もある
- 原因となる刺激を見つけ解消してあげる必要がある
交感神経が血管の収縮・拡張をコントロールしていることはご存知でしょうか?
”

え、拡張も?
このように思った方は少なくないはず…
前回の記事で少し説明していますが、血管には副交感神経による支配はありません

運動の時はどうしているの?

確かに運動の時は
骨格筋などへの血流は増えて
消化器などへの血流は減らしているはずですよね!
交感神経からの伝達物質は全てノルアドレナリンです
神経(伝達物質)自体はどの部位も同じになっています!
違いが生じるのは受け取る側!
つまり血管平滑筋の受容体が違うんです!!
骨格筋・気管支平滑筋の血管→β受容体
そのほかの血管→α受容体
この違いによって交感神経が興奮した際には…
骨格筋・気管支平滑筋の血管→拡張
その他の血管→収縮
このような違いが生じます!!
血管の拡張においてはまた別の機序も存在しますが、今回はこのへんで!
血管(平滑筋)には交感神経しか支配していないことが分かったところで…
自律神経過反射の機序について説明していきます!!
これには”体性-内臓反射”という自律神経反射が関わってきます!
皮膚、筋や関節などの効果器に加えられた刺激が、中枢(延髄・脊髄)を介して反射性に自律神経遠心性繊維の自発活動を変化させる。
体性感覚→求心路
自律神経→遠心路
他にも、内臓-内臓反射、内臓-体性反射という種類がありますが、
今回は体性-内臓反射のみ説明していきます!
生体皮膚や筋などに加えられた刺激情報、体性感覚情報として意識にぼり、行動や情動などに影響を及ぼす。同時に自律機能として反射性反応として様々な現象が引き起こることが知られている。
廣瀬 昇:体性-自律神経反射と体位 ~救急医療における体位から学ぶ 見逃している身体知~The 26th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2012
このように皮膚などから得られた体性感覚情報は自律神経反射にも作用し様々な反応を引き起こします!
体性-自律神経反射にはいくつか種類があるので簡単に紹介!
- 体性-循環促進反射
- 体性-胃運動(促進反射・抑制反射)
- 体性-膀胱促進反射
- 体性-副腎髄質抑制反射
今回の自律神経過反射は主に体性-循環促進反射によるものです!
(体性-血圧反射とも言われています)
痛みや不快な皮膚刺激によって
交感神経が興奮し、血管が収縮することで血圧が上昇します
血圧が異常に上昇してくると…
通常であれば頸動脈受容器・大動脈受容器が察知
脳(延髄)へ伝達され以下の指令がでる
- 副交感神経(迷走神経)による心臓の調節
- 交感神経による血管拡張
これらの機序によって血圧は保たれます!!
- 脊髄が損傷し、交感神経による血管拡張の指令が末梢まで到達できない
- 迷走神経のみ心臓に作用し心拍出量の低下・徐脈が生じる
- 末梢血管の調整ができないため心臓による代償のみでは限界がある
このように、末梢血管のコントロールができなくなっているため
心臓の心拍出量や心拍数を調整することでしか代償できなくなります!
場合によっては脳出血にも至ってしまう危険な現象なので
遭遇した場合には刺激の原因を探って解消してあげる必要があります!!
その原因が分からなかったり、対処法が自身の職域を逸脱してしまうような場合は
医師や看護師に早急に対処してもらう必要があります!
セラピストでも可能な対応についてまとめておきます!!
- ポジショニング
- 枕の位置調整
- シーツのしわなどを整える
- ベッドアップ
- バルーンの位置調整etc
本人の自覚症状や実際のバイタルサインを確認しながら行いましょう!!
症状が落ち着いた場合にも他職種(セラピストの場合は医師や看護師)に必ず報告します!
脊髄損傷急性期リスク管理②【起立性低血圧】
次のリスク管理で覚えておきたい現象はこちら!
”起立性低血圧”
これはその他の疾患においてもよく認められる現象ですね!!
自律神経障害による血圧調節障害の1つです!
ヒトは、4足動物と比較すると血液分布と心臓の位置の関係から
重力の影響を受けやすく血圧を保つことは容易ではありません!!
臥位と立位における動脈血圧の変化を確認してみましょう!
臥位における動脈血圧は
頭部:100mmHg
心臓:100mmHg
足部:100mmHg
このように頭部・心臓・足部で100 mmHg前後と変化はありません!
立位の場合の血管内圧はそれぞれこのようになります!
心臓→100 mmHg
頭部→60mmHg
足部 →200mmHg
このように心臓以外の部位においては重力による影響を受け、
血管内圧に変化が起こっているのが分かります!!
静脈圧に至っては…
心臓の高さで0mmHgですが
頭部→-40mmHg
足部→-100mmHg
このようになります!!
詳しく知りたい方はこちらの文献を見ていただくとよく分かります!
起立性低血圧は、
下肢に血液が鬱滞し心臓へ戻らなくなったために引き起こされます!
それを防ぐためにはどうするかというと…
交感神経により末梢血管を収縮する!!
末梢血管を収縮させるためには
交感神経による神経活動が非常に重要になってきます!
安静時から15度ずつ徐々にヘッドアップした際,臥床時に比べ45度起立時では約2.5倍交感神経活動が増大した.
Lee KH., Ogata H., Tajima F., Khunphasee A., Bleiberg M: Head-up tilting effect on muscle sympathetic nerve activity and skin blood flow of the leg. Arch. Phys. Med. Rehabil. 1994
このようにベッドアップ程度の変化でも交感神経の興奮は増大します!
端座位や立位をとった際にはさらに交感神経の興奮性は増大する可能性が!!
つまり、
急激な身体への重力変化に伴った血圧の維持には
交感神経が非常に重要な働きを担っていると思われます!!
脊髄損傷患者における
交感神経の活動についての研究はまだ十分とは言えず
憶測の域は超えられませんが、
比較的高位の損傷例においてはこの機序がうまく働いていない可能性があります!!
- 下肢に弾性包帯を巻く
- 腹帯を巻く
- 離床中に下肢を動かし循環血液量を少しでも増やす
対処法は限られてきてしまいますが、できるだけのことは準備しておくべきですね!!
バイタルサインと自覚症状を確認しながら患者さんと相談して可能な限り離床範囲を広げたり時間を引き伸ばしていくことがまずは必要だと考えます!
まとめ
長くなりそうなので、今回はここまで!!
- 自律神経は身体の様々な部位において生命活動を維持するために重要な働きをする
- 血管の収縮・拡張は全て交感神経によって引き起こされる
- 自律神経過反射は体性-内臓反射という自律神経反射によって生じる
- 自律神経過反射への対策としてはポジショニングや環境調整などがある
- 解決できない場合には医師や看護師に報告する必要がある
- 起立性低血圧は自律神経障害による血圧調節障害の1つ
- 2足動物であるヒトは血圧コントロールにおいて重力による影響を受けやすい
- 臥位からベッドアップするだけでも交感神経の働きは高まる
- 重力変化に対して血圧を維持するためには交換神経の働きが重要
- 対策として弾性包帯・腹帯の使用、下肢の運動による循環血液量の増加がある
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