はじめに

今回はPusher現象とlateropulsion(ラテロパルジョン)
この2つの現象の違いについてまとめていきます!!

確かに観察される現象としては似ているよね〜
でもその機序や責任病巣などを紐解いていくと
この2つの現象を理解できると思うから一緒に頑張ってまとめよう!!
この記事を読んでいただければ無料&たった〜分で
Pusher現象とlateropulsionの違いについて様々な観点から学ぶことが可能です!!
ぜひ最後までご覧ください!!
// /【結論】Pusher現象とlateropulsionの違い
まずは結論から!!
下の方で詳細をまとめていますので
より詳しく知りたい方はスクロールしてください!
- 病巣と身体が傾く方向性が違う
→Pu:対側に傾倒、la:同側に傾倒 - 責任病巣が違う
→Pu:大脳半球損傷、la:延髄外側損傷 - 姿勢矯正に対する反応が違う
→Pu:矯正に抵抗する、la:抵抗しない - 垂直性の異常特性が違う
→Pu:SPV・SVV・SHVが麻痺側に偏倚、la:SVVのみ麻痺側に偏倚
2つの現象の違いをざっとまとめるとこんな感じになります!!

理学療法士
こうやってみると結構シンプルなんですね

綺麗にまとめられるとかなり分かりやすくなるよね!!
これらの違いをまとめると
”2つの現象を鑑別する”為には以下のポイントが挙げられるよ!!
それでは詳細について少しまとめていきます!!
// /Pusher現象とは?

まずはpusher現象の基本的な知識から!!
「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し、自らの非麻痺側上下肢を使用して床や床面を押して、正中にしようとする他者の介助に抵抗する」
Davis PM: Steps to follow. SpringerVerlag,1985.
Pusher現象には…
- 麻痺側へ傾倒する
- 他者からの介助(矯正)に抵抗する
このような特徴があります!
そしてこの現象の生因には以下のものが考えられています!!
Pusher 現象の生起には,患者自身の垂直軸のずれが関与することが示唆されている.
藤野雄次ら:Pusher現象の生起メカニズム PTジャーナル Vol.54No.6 JUN.2020
Pusher現象はこのように
身体の垂直判断の異常によって生じている可能性があると示唆されています!!

理学療法士
垂直判断にはどんなものがあるんですか?
私たちが自身の身体が垂直かどうかを判断する為には以下の
- 視覚的な垂直判断(subject visual vertical:SVV)
- 身体的な垂直判断(subject postural vertical:SPV)
- 触覚的な垂直判断(subject haptic vertical: SHV)
これらの要素が関係していきますが
Pusher現象においてはこれらが麻痺側にズレていると言われています!!
特に先行研究においては…
身体的な垂直判断(SPV)からの影響が大きいと言われています!
また、Fukataら(2020)によって…
SPVでは、PBのみの患者およびPBおよびUSNの患者で、対病変傾斜が有意に大きく、変動性が高かった。
Fukata K, et al:Influence of unilateral spatial neglect on vertical perception in post‒stroke pusher behavior. Neurosci Lett 2020;715:134667.
SPVが測定ごとに一定しない”動揺性”についてもPusher現象例(Pusher +半側空間無視例も)が優位に大きいと言われています!!
半側空間無視の合併によって動揺性が大きくなるなどその重症度は重くなりPusher現象が遷延化しやすい傾向になりますが、あくまでそれぞれ単独で出現する症状ということは覚えておきましょう!!
このようにPusher現象においては異常な垂直判断(特にSPV)がその要因の1つに挙げられています!!
次に
なぜPusher現象においては矯正について抵抗するのか?について!!
それについてはこのように言われています!
pusher 現象 の「抵抗」には,運動出力の異常,生体力学的要素と恐怖感との関連による影響を考慮する必要性が示唆される.
藤野雄次ら:Pusher現象の生起メカニズム PTジャーナル Vol.54No.6 JUN.2020
- 運動出力異常
- 生体力学的要素(支持基底面・圧中心・安定性限界などのことを指している)
- 恐怖感

理学療法士
また、なんか難しそうな話ですね…
Pusher現象における運動出力異常というのは簡単に説明すると…
非麻痺側上下肢での過剰な筋出力
このことを指しています!!
Fujinoら(2019)は
重度Pusher現象例の座位における筋電図学的特性を
2症例に対して検証し…
In both patients, electromyography of the non-paretic triceps brachii muscle revealed excessive activity.
Fujino Y, et al:Electromyography‒guided electrical stimulation therapy for patients with pusher behavior:A
case series. NeuroRehabilitation 2019;45:537‒545
このように”上腕三頭筋”において過剰な活動を認めました!!

そのほかの筋については異常な筋活動は認めなかったようだけど
上記の研究では症例数が少ないことと座位のみの検討だから今後の研究の進展に期待だね!!
上の論文では、
非麻痺側の上腕二頭筋、つまり”拮抗筋”に低周波刺激を付加することで
Pusher現象を抑制できたとも説明しています!

理学療法士
今までPusher現象に対して
垂直判断とか認知的な側面が強いかなって印象だったんですが
運動的な側面も関係してくるんですね…
ただ、運動というのは認知的な面も含めて様々な要素が絡んできます!
Pusher現象に”運動的な側面がある可能性”が示唆されていても
認知的な部分や心理的な部分、さらには姿勢制御など
様々な側面から検討していく必要がありそうです!!
次に生体力学的な要素について!!
引用先では…
姿勢の安定性にかかわる”支持基底面”や”圧中心”、”安定性限界”
これらについて言及されています!!
Pusher現象において
姿勢安定性に関わるこれらの要素はこのように変化します!
- 圧中心→麻痺側へ著しく偏倚
- 安定性限界→狭小化
つまり、患者が安定していると感じているのは
麻痺側のかなり限られた領域のみ!!
さらに重度の麻痺によって
さらにその領域が限られてくることも容易に想像できます!
セラピストの正中方向への姿勢“矯正”は,患者にとっては安定性限界からの逸脱を“強制”されることを意味し,その結果,非麻痺側方向への恐怖感が惹起し,安定性限界に圧中心を戻すために押し返す反応を示すと解釈できる
藤野雄次ら:Pusher現象の生起メカニズム PTジャーナル Vol.54No.6 JUN.2020
このように.…
非麻痺側方向への移動を強制されることへの恐怖感から
Pushingが生じていると解釈できると説明されています!!
私たちが正中位へ矯正しようとすると
自身にとって安心できる領域を著しくはみ出すわけですから、
本人としては恐怖でしかないですよね?

このような背景もあって
運動麻痺の程度は
Pusher現象の予後を規定する因子の1つとして知られているよ!!

理学療法士
そういう背景があったんですね〜
あ、ちなみに責任病巣はどこですか?
pusher現象の責任病巣は…
大脳半球
(視床後外側部・島後部・中心後回皮質下)
このように言われています!!
特に劣位半球(右側)での頻度が多く、重症度も比較的高いと言われています!

右側では主に認識した空間や体性感覚、垂直判断を統合しているから損傷された時の影響が大きいんだろうね!!
Pusher現象の詳細は責任病巣も含めてこちらの記事でまとめています!!
このように少し長くなりましたが
Pusher現象についてまとめてみると…
- 責任病巣は大脳半球
- 姿勢矯正に対して”押す”現象で抵抗する
- 麻痺側に傾倒する
- SPV・SVV・SHVが麻痺側に偏倚
(最も影響が大きいのはSPV)

理学療法士
大まかなPusher現象についての内容については理解できました!!
欲を言えば評価スケールや介入方法とかも知りたかったですね…

より詳細な内容やアプローチ方法の例などは
下の記事でまとめているから
気になるようなら見てくるといいよ!
lateropulsion(ラテロパルジョン)とは?
次にlateropulsionについて少しまとめていきます!!
この現象をはじめに発見したのは”Davies”という人物です!
あらゆる姿勢において麻痺側に傾倒し、姿勢の他動的な修正に対し抵抗する現象
Davies P. Steps to follow: a guide to the treatment of adult hemiplegia. Berlin: Springer-Verlag; 1985.
Davisは”lateropulsion”についてこのように定義していました!!
Pusher現象にも関係しますが
Daviesは当初、lateropulsionも含めて”Pusher症候群”と呼んでいたそうです!
(現在は症候群とする明確な根拠がなく、Pusher現象やlateropulsionといった現象の名前で分けて使用されています)

この時点ではlateropulsionもPusher症候群の1つで
”姿勢矯正に対して抵抗する”と一括りにされているけど
現在はそんなことはないから勘違いしないようにしよう!
”lateropulsion”とは現在、このように説明されています!!
lateropulsion(axial lateropulsion,lateropulsion of the body)とは、不随意的に一側に身体が倒れてしまう現象を言い、前述したLMIs(延髄背外側部梗塞例)で出現するWallenberg症候群の1つとして知られている。
阿部浩明:脳機能を考慮した理学療法思考プロセス-Isolated lateropulsionを呈した症例 脳科学とリハビリテーション Vol.11 2011
lateropulsionの特徴についてまとめると以下が挙げられます!!
- 延髄外側に病変が及ぶことで生じる
- 病巣と同側へ傾倒する
- 姿勢矯正に対して抵抗しない
- 垂直認知はSVVのみ麻痺側に偏倚する
- 一般的に数週間程度で改善する

理学療法士
lateropulsionは何か悪い影響を及ぼすんですか?
lateropulsionもPusher現象と同様
退院時のADLに影響を及ぼすことが示唆されています!
脳卒中とlateropulsionを有する患者は、lateropulsionを有しない対照群と比較してFIMの得点が低く、より多くの支援を提供する退院先を必要とした。
Babyar SR, White H, Shafi N, Reding M. Outcomes with stroke and lateropulsion: a case-matched controlled study. Neurorehabil Neural Repair 2008;22:415-23.
”lateropulsion”がADLや入院期間に影響を及ぼすことについて言及している研究はこれ以外にもあるので気になった方はぜひ探してみてください!

Pusher現象と同様、これらの現象は重度のものになると
通常の脳卒中リハを提供するのが困難になる程介助量が増えるから
練習の妨げにもなってしまうよ!!
lateropulsionは
”延髄外側症候群(ワレンベルグ症候群)”
つまり、延髄外側に病変が及んだ場合に
その他の症状とともに出現することが多いです!
※延髄外側症候群については別記事にまとめます!

理学療法士
名前くらいは聞いたことありますが
責任病巣というか延髄の外側って
どんな神経繊維が関わってるんですか?
ワレンベルグ症候群において生じる症状から考えると
これらの神経繊維が関わってきます!!
症状 (同側) | 病巣 |
---|---|
小脳性運動失調 | 下小脳脚 |
顔面の感覚解離 | 三叉神経脊髄路核 |
眼振・めまい・嘔吐 | 前庭神経核 |
ホルネル症候群 | 交感神経下降路 |
嚥下困難・嗄声 | 疑核・舌咽神経・迷走神経 |
症状 (対側) | 病巣 |
---|---|
体幹・上下肢の感覚解離 | 脊髄視床路 |

理学療法士
lateropulsionについては
特に書かれてないですがこの中にあるんですか?

まだ色々議論はされているんだけど
以下の神経繊維が関係していると言われているよ!!
- (背側・腹側)脊髄小脳路
(Maeda et al,2005)(Arai M,2006)(Thömke F,2005) - 外側前庭脊髄路(Arai M,2006)(kim HJ et al,2007)(Thömke F,2005)
- 脊髄視床路(C. Eggers et al,2009)
※これらの詳細についてはlateropulsionの記事でまとめます!!
実はlateropulsionは延髄以外の報告も挙げられています!
・上・下小脳脚
・橋
・小脳下部など

画像所見だけに囚われずに
臨床所見も含めてlateropulsionについて検討できるといいね!
もし同じような症例を担当したら症例報告もいいかもね!!
これらの神経回路がどのような機序で
”lateropulsion”という姿勢定位障害に関わってくるかは
こちらの文献でまとめられています!!
背側腹側脊髄小脳路は、同側体幹と下肢からの姿勢や運動に関連した固有感覚情報を媒介している。前庭脊髄路は伸筋には強い興奮作用を示すが、下肢の屈筋には抑制作用を示すため、身体姿勢の維持に重要な役割を果たしている。下小脳脚は、主に固有感覚と運動出力を伴う前庭感覚入力の統合に関与しており、姿勢とバランスを維持するために不可欠な領域である。まとめると、これらの構造はすべて体の姿勢を維持するために必要なものであり、これらのうちの1つまたは複数に病変があるとlateropulsionを引き起こす可能性が高い。
C. Eggers et al:Correlation of anatomy and function in medulla oblongata infarction European Journal of Neurology 2009, 16: 201–204
つまり…
✔︎脊髄小脳路→同側体幹・下肢からの固有感覚情報を伝達する
✔︎前庭脊髄路→伸筋(興奮)・屈筋(抑制)に作用し姿勢維持を行う
✔︎下小脳脚→ 固有感覚・前庭感覚の統合に関与
これらが姿勢バランスを維持する為に必要であり、
これらのうち1つor複数に病変が及ぶと
“lateropulsion”の原因になる可能性を示唆しています!!

理学療法士
固有感覚や平衡感覚などの情報を適切に処理して
姿勢維持のための適切な筋収縮が行えないということですね!

また、垂直判断との関連性も検討されているよ!!
Lateropulsion群において、SVVの偏倚が非常に大きかったのに対しSPVやSHVの偏倚はコントロール群の平均値±標準偏差内であった。
D.A.Perennou et al:Lateropulsion, pushing and verticality perception in hemisphere stroke: a causal relationship? Brain (2008), 131, 2401-2413
lateropulsionが重症になる程SVVが麻痺側に偏倚する
Dieterich M, Brandt T, et al.: Wallenberg’s syndrome: lateropulsion, cyclorotation, and subjective visual vertical in thirty-six patients. Ann Neurol. 1992; 31: 399‒408.
このように、Pusher現象が主にSPVが偏倚しているのに対して
lateropulsionはSVV(視覚的な垂直判断)が偏倚していることが示唆されています!!

身体的な垂直判断と視覚的な垂直判断における異常の違いが
姿勢矯正に対する抵抗の有無にも影響してきそうだね!!
まとめ
“Pusher現象”では
姿勢を矯正される恐怖感や自身が安心できる姿勢に戻ろうと
異常な筋収縮が生じたことで
結果として、病巣と反対側へ傾倒しましたが
“lateropulsion”においては
平衡感覚や視覚的な垂直判断の異常
そして同側の体幹・下肢の正常な筋収縮が得られないため
結果として、病巣と同側へ傾倒します

理学療法士
それぞれの病態や病巣などを踏まえて考えると
この2つの現象は全く違う背景で生じていることがよく分かりました!!
予後など
その他の詳細についてはそれぞれの記事でまとめていこうと思います!!
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理学療法士
僕からすると
2つとも側方に倒れてしまうという点では同じようなものに見えて
これを区別する理由があんまりわかりませんでした
これを機に2つの違いを明確にしたいです!!