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はじめに
おばんです!
前回は心不全のリスク管理についてまとめました!!
上の記事をみてくれていた方は心不全を増悪させてしまうリスク因子の中に
”脳卒中の発症”が入っていることに気付いたでしょうか?
自分は現在、脳卒中を主に担当させてもらっていますが、
僕の感覚として
脳卒中患者における心不全合併は決して少なくありません。
その中でも特に心原性脳梗塞やくも膜下出血などの症例は心不全を合併されていることが多いように感じます。
僕が新人の頃もそうでしたが、
脳卒中患者を担当する際、
ついつい脳画像や神経症状の変化のみのリスク管理になりがちです!!
(新人の頃はメインの疾患についての勉強で手一杯になるのは当然なのですが…)
ですが、原疾患の他にもリスク管理するべき項目がたくさんあることを
この記事を読んで頭の片隅に置いてもらえるといいのかなと思います!
では、やっていきましょう!!
// /脳卒中で心不全を合併しているパターンは3つある
脳卒中で心不全を合併するパターンとしては
主に3つあると考えています!
①心疾患発症によって心不全を合併し、不整脈→心原性脳梗塞を発症したパターン
②慢性心不全増悪の結果、不整脈が生じ心原性脳梗塞を発症したパターン
③脳卒中発症後の治療によって心不全を発症・増悪したパターン
以上の3つが脳卒中患者において心不全を合併しているパターンになります。
それでは、どういうものがあるのか少し解説していきます!
// /心原性脳梗塞と診断されたら心疾患・心不全がないか確認しよう!
心原性脳梗塞における発生機序として、
心房細動によるものが臨床では多く目につきます
心原性脳梗塞のおよそ45%は心房細動が占めているといわれています。
脳卒中データバンク2009 病態別・年代別頻度ー欧米・アジアとの比較
皆さんの中にも心原性脳梗塞の患者を担当することがいると思いますが、
その原因としては発作性心房細動や心房細動を持たれている方がほとんどではないでしょうか?
心房細動の発生の因子としては、
- 高血圧症
- 冠動脈疾患
- 心筋症
- 弁膜症
- 洞不全症候群
- 心不全
- 手術など
加齢
ストレス
アルコール
糖尿病
慢性腎臓病など
これらの多くの因子が関係しています。
ここで知っておいて欲しいポイントとしては、
心房細動の発生が先か
心不全の発症が先か
この心房細動と心不全の関係を自分の中で構築して整理しておかなきゃいけません。
心房細動によって心不全は引き起こされますし
心不全によって心房細動も引き起こされます!
心不全による心房細動が引き起こされる機序としては、
- 心臓のリモデリングによる心房内での興奮伝導不均一化とリエントリーの出現
- 交感神経亢進による肺静脈(心房細動のトリガー)の異常興奮
この二つが関連しています。
こちらに関しては、前回の記事に詳しく記載しているので、もしよければそちらもみていってくださいね!
”心不全”と”心房細動”
この二つの関係性を整理するためには
- 心疾患がないか
- 不整脈がもともとあったのか
- 慢性心不全の既往がなかったか
- レントゲンや超音波検査などの所見
これらの情報をカルテや本人、家族から収集して仮説をたてる必要があります!!

そしてその仮説をもとに心臓に対してのリスク管理をどのように行なっていけばいいのか?という話につながっていきます。
重度の心不全や弁膜症などについては離床自体がリスクが高いということは十分あり得ますので、先輩や担当医に相談しましょう!!
また、心不全を合併されている脳卒中患者においては
退院の際に心不全の増悪による再入院などを予防するために
退院後の生活指導や自主練習の指導が非常に重要ですので
急性期を過ぎた後でもしっかり考えて介入していきましょう。
たこつぼ型心筋症の合併による心不全発症
くも膜下出血、脳出血、脳梗塞にたこつぼ型心筋症を合併することがあります。
たこつぼ型心筋症とは?
急性心筋梗塞と類似した臨床症状,心電図所見を呈し,心尖部の無収縮と心基部の過収縮にともない,左室造影所見でたこつぼ状の形態をとることを特徴とし、高齢女性に多い。
たこつぼ型心筋症と脳梗塞 加藤ら
くも膜下出血においては、H&K grade 4 以上やWFNS分類のgradeⅣやⅤなどの重症例において合併頻度が高いようです。
予後は比較的良好で、発症後数週間以内で心機能が改善すると言われています。
Lee VH et al Takotsubo cardiomyopathy in aneurysmal subarachnoid hemorrhage: an underappreciated ventricular dysfunction. J Neurosurg 105: 264–270, 2006
たこつぼ型心筋症の治療としては、
心不全や不整脈などの合併症に対する以下の対症療法が中心になるようですので
ポンプ失調(心不全)
利尿薬
血管拡張薬
カルペリチドやカテコラミン
PDE 阻害薬などによるコントロール左室心尖部血栓形成
抗凝固療法
左室流出路閉塞 (左室心尖部領域の収縮低下+心基部の過収縮→閉塞)
輸液増量
β遮断薬投与不整脈
たこつぼ心筋症の病態と治療;臨床医の立場から 栗栖 智
生化学データの是正(低カリウム血症など)
一時的なペーシング
硫酸マグネシウム投与
リハビリにおいては
心不全や不整脈に応じたリスク管理と介入が重要と思われます!!
詳しい機序についてはたこつぼ型心筋症の記事を別に書きたいと思いますので気になった方はどうぞまたいらしてください!!
発症後の治療によって心不全が出現・増悪することもある

脳卒中における治療法についてはどんなものが浮かんできますか?
全く、浮かんでこなければ調べてみましょう!
心不全が引き起こされる治療についてはいくつか考えられますが、
代表的なものをいくつか挙げていきます!
- 脳浮腫に対する抗浮腫療法
- くも膜下出血に対する Triple-H療法
この2つについて解説していきます!
抗浮腫療法によって心不全を合併する
脳卒中、特に脳梗塞において広範囲にわたるような重症症例に対しては
脳浮腫に対して”抗脳浮腫療法”が適用されることが多いです。
脳浮腫の定義としては、
さまざまな原因により脳実質の細胞外腔や細胞内に水分が異常に貯留し,脳の容積が増大した状態です
脳浮腫 卜部貴夫 理学療法ジャーナル 51巻8号 2017年8月15日発行
発生機序として、2つあり
血管原性浮腫:血液脳関門の破綻が脳血管の透過性が亢進させ、血漿成分が脳細胞内で貯留し浮腫が生じる
細胞障害性浮腫:細胞の代謝障害によって細胞膜でのイオンの移動が障害され,細胞内へナトリウムイオンと水が流入した結果、水分貯留によって浮腫を生じる
このような発生機序から
脳浮腫は、塞栓部やその周囲に発生します。
重度の脳浮腫を認める場合、
頭蓋内圧の亢進が起こり,容量が限られている頭蓋内では対側の脳実質や下位のレベルの脳実質が押され、
脳ヘルニアを呈してしまう場合があります。
脳浮腫や脳ヘルニアについては色々あるため、別の記事にしたいと思います。
この脳ヘルニアによって重篤な脳損傷が生じ、最悪の場合は死に至ってしまうこともあるため
抗脳浮腫療法が必要になるわけです。
抗脳浮腫療法とは?
抗脳浮腫療法とは、
脳浮腫を軽減させる目的で、
グリセオール(グリセレブ)やマンニトールという”浸透圧利尿薬”が使用されます。
これらを点滴すると
血液中の浸透圧が高くなり、
脳に溜まっている水分を血管内へ誘導し、その結果浮腫を軽減させます。
急性期脳出血において
高張グリセロール静脈内投与は、頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳出血の急性期に推奨される(グレードB)
マンニトール投与が脳出血の急性期に有効とする明確な根拠はないが(グレード C2)、進行性に頭蓋内圧が亢進した場合やmass effectに随伴して臨床所見が 増悪した場合には、考慮しても良い(グレードC1)
急性期脳梗塞において
高張グリセロール(10%)静脈内投与は、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性梗 塞のような頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞の急性期に推奨される(グレード B)
マンニトールは脳梗塞の急性期に使うことを考慮するのはよいが、十分な科学的根拠ない(グレードC)
脳卒中治療ガイドライン2004
482例のグリセロール投与群、463例の対照群を比較し、グリセロールは脳卒中急性期の死亡を有意ではないがわずかに減少させ、虚血性脳血管障害に限れば有意に死亡を減少させることが示されています。
Righetti E et al Glycerol for acute stroke. Cochrane Database Syst Rev 2000
さて、本題に戻りますが
この治療の結果、
循環血液量が増大する事によって、心臓における”前負荷”が増大し、
心不全を悪化させてしまう可能性があるので、注意が必要です
ちなみに、この治療によって気を付ける部分はそれだけではありません。
その後、利尿による血管内脱水が引き起こされたり、
薬の特性上、糖尿病がある人は高血糖を起こすことがあったり、
腎臓に負荷がかかるため腎不全患者にこれらの薬品は使用できません。
心不全以外にもリスク管理が必要なことはたくさんありますので他のことについても学んでおきましょう!
Triple-H療法によって心不全を合併する
くも膜下出血の合併症に
遅発性脳血管攣縮(DCI)というものがあります。
DCIとは、くも膜下出血の発症後、3~14病日(脳血管攣縮期=スパズム期)の間に多く発生すると言われていて、
出血後に生存しているうちの30%はこのDCIを合併すると言われています。
また、
この合併症は脳梗塞へ移行しやすく高確率で機能障害や死亡につながっていきます。
Delayed cerebral ischaemia after subarachnoid haemorrhage: looking beyond vasospasm M. J. Rowland et al British Journal of Anaesthesia 109 (3): 315–29 (2012)
この合併症に対して、
”循環血液量増加:hypervolemia”
”人為的高血圧:hypertension”
”血液希釈:hemodilution”
これらの3つに治療で構成された Triple-H療法というものがあります。
これらの治療が発症後の脳循環血液量の低下に対して有効とされています
Origitano TC et al Sustained increased cerebral blood flow with prophylactic hypertensive hypervolemic hemodilution (“triple-H” therapy) after subarachnoid hemorrhage.
しかし、エビデンスには乏しく
2001年に行われたRCTでは、
・2000mLの5%ブドウ糖液と晶質液の投与に加え,1000~1500mLの膠質液を輸液し,CVPを8~12cmH2Oに保った(hypervolemia)
・ドパミンを昇圧薬として使用し術前より20mmHg高い平均動脈圧を目標とした(hypertension)
・ヘマトクリット値は30~35%として管理した(hemodilution)
このように設定し管理した群と対照群とで1年後の機能予後,症候性血管攣縮の発生頻度も有意差を認めなかったと発表されました。
そのため、現在はあまり推奨されていない治療のようです。
それを前提に話を進めますが
- 循環血液量の増加
- 昇圧薬による血圧上昇
この2つの要因によって心臓に負荷がかかった結果、心不全が発症・増悪する可能性があります。
僕がこのことから一番伝えたいこととしては、
急性期脳卒中患者においては、必ず輸液をされていますし、
人によっては昇圧薬を使われていることもあります。
その輸液と昇圧薬の程度によっては
心不全を呈してしまうこともあり得ますので、
カルテでin-outバランスを確認したり、
何の目的で昇圧薬が使われているのかを調べましょう。
まとめ
脳卒中患者において心不全になってしまう理由をまとめました!
以上の理由から
脳卒中患者においては神経症状だけに固執することなく
生化学検査やバイタルサインなどの情報収集と介入中の観察を徹底して
心不全を合併または増悪していないかどうかを判断しながら介入する必要があります!
また、心不全に限らず
糖尿病などのその他のリスク管理についても重要ですので、既往や合併症に対しての知識をしっかりつけていきましょう!
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