- E/AやE/e’、DCTなどの単語がわからない人
- 拡張能の評価について知りたい人
- 心エコーの結果で見るべき項目がわからない人
Contents
はじめに
おばんです!
Yu-daiです
前回は心エコーにおける大動脈弁や僧帽弁の評価についてまとめました!
今回は心臓の拡張能について!!
心臓の拡張能についてなぜ調べる必要があるの?
このように思う人もいるかもしれませんが
心臓の拡張能は
”収縮能が保たれた心不全(HFpEF)”
つまり心不全の精査のために重要な項目の一つです!!
私の場合、新人の頃は”左室収縮能”だけ確認して
「よし!心不全ではないな!!」と短絡的に考えてしまっていたこともありました
収縮能が低下したものだけが心不全ではありません!
心不全について正しく理解していないと
リハビリの介入によって心不全の増悪を助長しかねないので
収縮能だけではなく拡張能についてもここでしっかり理解していきましょう!
// /左室拡張能とは?

左室拡張能について簡単に説明します!
左室拡張能とは?
拡張期における左房から左室への血腋の流入動態を規定する
拡張不全の発症メカニズム 山本一博
これだとまだ分かりにくいと思うので
もっと掘り下げていきます!
左室拡張機能障害とは
左室弛緩障害と、左室スティフネス(左室の硬さ)の上昇のことを指し、その結果、心充満圧が上昇する
Recommendations for the Evaluation of Left Ventricular Diastolic Function by Echocardiography: An Update from the American Society of Echocardiography and the European Association of Cardiovascular Imaging
つまり、左室拡張能とは
- 心筋の張力を低下させる機能(左室弛緩能)
- 左室の硬さ
大まかに分かると
この2つを指していることがわかってきます!!
先ほど心不全の精査のために使われると説明しましたが
拡張能が低下している心不全は全体の何%なんでしょうか?
137人の心不全患者のうち、59人(43%)が収縮機能を維持していた。
Congestive Heart Failure in the Community A Study of All Incident Cases in Olmsted County, Minnesota, in 1991 Michele Senni, MD
海外の論文ですが、心不全のうちおよそ40%は
左室拡張障害によって引き起こされたもののようですね
女性の高齢患者において発症頻度が多いのが特徴的です!
発症のメカニズムとして
- 高血圧による圧負荷
- RA系(レニン・アンジオテンシン系)の活性化
これらが挙げられています!
それぞれ、作用が少し違うのですが
✔︎高血圧→左室肥大(代償性肥大)
✔︎RA系活性化→左室内腔狭小化(求心性肥大)
✔︎弛緩するために必要なカルシウムイオン取り込みの阻害
これらの作用によって
左室弛緩能低下
左室の硬度増大
この2つが生じて拡張障害が出現します!
RA系については以下の記事で説明していますので参考にしてみてください!
心エコーで左室拡張能の評価に必要な項目は?
では、左室拡張能を評価するために必要な項目について説明します!
左室拡張能の評価については以下のように言われています!!
”弛緩能””コンプライアンス””左室充満圧”
これらそれぞれを反映する単独の指標は存在しない。
心エコー法による左室拡張能の評価 冨田紀子
これらは密接な相互関連があるため、完全に分離して評価することは困難である。
したがって,各種指標を用いた総合的な判断が必要である。
以上から
様々な指標をもとに評価しないことが分かりますが
拡張能に関連する指標全てをまとめると…
→膨大な文字量になってしまう
→学生や新人にとって理解しにくい記事になってしまう
このように考え
今回の記事においては
当院でよく用いられている指標を挙げて説明していくこととします!
実際に臨床で用いられている指標について
勉強し始めた方が効率が良いかと思いますのでよろしくお願いします!!
左室拡張能の評価に最低限必要な項目はこれだ!
左室拡張能の評価には…
- 僧帽弁口血流速波形(TMF)
- 僧帽弁輪運動速波形
これらが最低限必要です!
こんな名前心エコーにあったかな??
と思われている方もいると思います!
この2つの波形から求められる指標が
拡張能を評価するにあたって非常に重要になります!
心エコーで用いられている指標が
どこから測定しているのかを知っておくことは重要です!!
✔︎TMFから分かる左室拡張能の指標
- 左房から左室への血流流入の速度を測定している
- 洞調律の心臓拡張期において2つのピークがある
(拡張早期波(E)と心房収縮期波(A)) - E 波減衰時間(DcT) を測定できる
- TMFのパターンから拡張不全の重症度評価が可能
E波とA波についてもそれぞれ説明します!
- 大動脈弁閉鎖~僧帽弁開放までの等容弛緩期に起こる
- 左室心筋が正常に弛緩→左室圧<左房圧
- 上記の圧較差が僧帽弁を開放する駆動圧になる
その結果→左房から左室への血液流入発生(=E波)
- 左心房が収縮した際に起こる
- 左房収縮→左房圧上昇→僧帽弁開放
→左房から左室に血液流入(=A波形成)
次はDCTについてです!!
- DCTはDeceleration timeの略
- 左室が十分弛緩すれば左室圧と左房圧の圧較差は大きくなる
→血液が早く左室へ流入
=E波が減弱する時間は短縮される
TMFにおいては
主にこの3つが必要な指標になっています!!
実際の心エコーの結果でどのように表記されるかは下で紹介しています!!
それと、
TMFには欠点があるので今のうちにお伝えしておきます!!
✔︎要チェック
TMFの欠点を理解しておこう!
- 年齢による影響を受けやすい(55~60歳以上)
- 心拍数(頻脈:100bpm以上)による影響を受けやすい
- 脱水や補液によりE波は減高・増高する
- 以下の項目においては評価困難
心房細動などの不整脈(A波が欠落する)
僧帽弁異常(MS・MRなど)
左房機能低下など
✔︎僧帽弁輪運動速波形から分かる左室拡張能の指標
- 心尖部から僧帽弁輪の運動をみている
- 僧帽弁輪の運動=左室の長軸方向への収縮・拡張を反映
- 拡張期の移動速度で左室拡張能を評価できる
- 収縮期波(s’)、拡張早期波 (e’)、心房収縮期波(a’)の3つで構成される
- 拡張能についてはe’が重要!
上でも書いていますが、
左室拡張能については
拡張早期波 (e’)
これだけ大切なのでまずはここだけ覚えていきましょう!!
その他については気になった方はご自分でも調べてみてくださいね!
上で説明したE波を小文字にしたものではないので気をつけてください!!
さて
ここまで皆さん分かったでしょうか?
これから下の見出しからよく心エコーでみる表記が出てくるのですが
それらを少しでも理解しやすいように
TMFや僧帽弁輪運動速波形について説明しました。
準備が整ったところで下にスクロールしましょう!!
// /左室拡張能の指標の重要な指標の1つ!【E/A】

まずはこちら!
僧帽弁口血流速波形(TMF)で求めることができる…
・E波(拡張早期波)
・A波(心房収縮期波)
これら2つについて先ほど説明した事を思い出してみましょう!
E波=左房と左室の圧較差で決定
A波=左房の収縮能または貯留されている血液量で決定
上記のように2つの値が求められました!
それぞれのパターンで説明してきます!

左室弛緩能に異常が生じた時…
正常に弛緩→左室圧<左房圧
この関係性が弱まってしまう!
=左室の圧が下がりにくくなり、左房との圧較差が生じにくくなる
圧較差↓=E波減高
つまりE波は弛緩能の異常によって減少してしまいます!
一方Aの方はどんなんでしょう?
E波のタイミングで左室へ流入するはずだった血液が減少してしまう
=正常時よりも左房に血液が溜まってしまっている
→左房収縮時における血液量は増大
左房内血液量増大=A波増高
つまりA波は弛緩能の異常により上昇します!
正常時、E/Aは
E/A ≧ 1
このパターンになりますが
左室弛緩能の異常時には
E↓、A↑
このようになりE/Aは
E/A < 1
上記のようなパターンを示します!!
この状態を”左室弛緩異常パターン”といいます
✔︎要チェック
上でも話しましたが、TMFには欠点があります!!
まずそれが1点目!
それに加えてもう1つ!!
左室弛緩能低下が低下した場合、E/A<1になりますが
左室弛緩能低下
+
コンプライアンス低下
(スティフネス上昇)
この場合、
TMFにおいては
1<E/A<2
このようなパターンとなります!
これを「偽正常化パターン」といいますが、
どのように上述のパターンになるか説明します!!
コンプライアンス低下は左室拡張末期圧を上昇させる
- 左室拡張末期圧↑=左房収縮時の負荷を増大(後負荷増大)
→A波減高 - 左室拡張末期圧↑=左房圧上昇(左室圧との較差が拡がる)
→E波増高
このような機序によって
E/Aは一見、正常な状態であるように見えてしまうようになります…
「見分ける方法ないの?」
察しの良い方はお気づきになっていたと思います…
答えはもちろんありますよ!
偽正常化パターンを見分けるためには
- E/e’
- 肺静脈血流速波形
この2つの所見を組み合わせて評価する必要があります!!
これら2つについては下の方で紹介していますのでこのまま読み進めてください
すぐにこの2つを知りたい方は調べたい方をクリック!
左室拡張能について評価するための基本!!【DCT】

DCTとはDeceleration timeの略ですね!
日本語では
僧帽弁口血流速波形のE波減衰時間
このような名前です!
名前が長く分かりづらいと思いますが
DCT=圧較差(左室と左房)が最大になってから0になるまでの時間
=血液流入量(左房から左室への)が最大になってから0になるまでの時間
このように覚えてください!!

基準値としては
160~200msec!
- 左室弛緩異常パターン→DCT延長(200msec以上)
- 偽正常化パターン→DCT短縮(正常時と見分けはつかない)
TMFで測定されるのでEやAと同様
上で説明した欠点から影響を受けます。
ここでさらにもう一つのパターンもここで紹介します!!
その名も
”拘束型パターン”
このパターンは
コンプライアンス異常がさらに進行することによって
E 波増高
A 波減高
DcT短縮
これらがさらに進行し…
E/Aに関しては
E / A ≧ 2 まで上昇します!
DCTについては以上ですが
TMFにおけるパターンについてまとめておきます
- 正常パターン
- 左室弛緩異常パターン
- 偽正常化パターン
- 拘束型パターン
これらのパターンによって左室拡張拡張不全の重症度が決定されます!
それはまた別の記事でまとめています!
偽正常化パターンの見極めに重要①!【E/e’】
e’波は僧帽弁輪運動速波形(僧帽弁輪の運動)を測定される事でわかります!
日本語では
拡張早期波
このような名前になっています
e’波高は,
- 左室の弛緩
- 前負荷
この2つによって規定されますが
大量輸液や重症僧帽弁逆流などで前負荷が増加すると e’波増大
=TMFと同様の影響を受ける
前負荷から影響を受けにくい
弛緩の延長に伴ってe’は低下!
→ 正確な弛緩能の指標!!
そのため心疾患を有している場合は
✔︎左室充満圧
✔︎左室弛緩
この両者の影響を受けるE波
そして
弛緩の指標である e’波
この2つの指標を用いて左室充満圧の指標として利用できます!!
左室充満圧=E/e’
この計算式で求めることが可能です。
左室充満圧が上昇している場合…
- 心室中隔側から観察した場合(Septal)
E/e’≧ 15 - 側壁側から観察した場合(lateral)
E/e’≧ 10~12 - 心室中隔側と側壁側の平均値を用いる場合(mean)
E/e ≧ 13
上記のような数値になります!!
偽正常化を区別する方法として
E/e’が挙げられていましたが、その区別法について紹介します!
E/e’≧ 15 により左室拡張末期圧の上昇
Clinical utility of single-beat E/e’obtained by simultaneous recording of flow and tissue Doppler velocities in atrial fibrillation with preserved systolic function. JACC Cardiovasc Imaging 2009 Kusunose K, Yamada H, Nishio S, et al
=コンプライアンスの低下(スティフネスの増加)の診断が可能である
つまり、E/AやDCTが正常範囲内であっても
E/e’が15以上であれば偽正常化パターンとなっている可能性があります!!
✔︎要チェック!
肥大心や重症収縮不全心では同じ基準が適用できないという報告があり、状況に応じて総合的に判断することが求められる。
心エコー法による左室拡張能の評価 冨田紀子
このように言われているのでこの点は注意しましょう!
そのため、基本的には下で話している
肺静脈血流速波形(PVF)も用いて偽正常化パターンかどうかを判別していく必要があります!
偽正常化パターンの見極めに重要②!【肺静脈血流速波形】
最後に肺静脈血流速波形について!!
英語表記では
”Pulmonary Venous Flow(PVF)”
このようになります
- 収縮期波(PVS波),拡張期波(PVD波), 心房収縮期波( PVA波 )から構成
- 左房圧波形に極めて類似している
- スティフネス増大(コンプライアンス↓)による偽正常化を見極めることが可能
このPVFをどう用いるかというと…
左室弛緩能の評価だけでなく
洞調律例の拡張不全型心不全の診断なども可能です!
左室弛緩異常の場合
E 波減高
→PVD波も減高
PVFはさらに
偽正常化パターンを見分けることができる有用な指標です!!
そこについてさらに説明します!
左室拡張末期圧が上昇している場合
心房収縮期においてA波減高
→PVA波増高・持続時間延長
これだと少しわかりづらいですね?
リハビリにも分かる客観的な指標があります!
PVFとTMFの両心房収縮期波の持続時間の差≧30msecの所見があれば
山田 博胤 II.診断の進歩 3.心臓超音波検査 日本内科学会雑誌 第101巻 第 2 号・平成24年 2 月10日
左室拡張末期圧の上昇、すなわち偽正常化パターンと判定できる。
つまり…
- PVFで測定できる心房収縮期波( PVA )
- TMFで測定できるA波
この2つの持続時間の差(PVAd-A)が
30msec以上=偽正常化パターン
このように判断することが可能です!
また、PVAd-Ad≧30の場合予後は極めて不良となります…
PVAはその他にも…
収縮不全型心不全患者において
PVA増高→肺うっ血もしくは前駆状態(偽正常化・拘束型パターンの場合)
PVAの増高なし→左房の後負荷不整合(左室拡張末期圧と肺静脈圧の両者が上昇)
心房筋の収縮不全
こんなこともわかります!!
まとめ
今回の記事は以上になります!!
いかがだったでしょうか?
心臓の拡張能の評価に必要な指標について理解できたでしょうか?
ではまとめです!!
- 左室拡張能とは左室弛緩障害+左室スティフネス(左室の硬さ)の上昇を指す
- 発生メカニズムとして高血圧・RA系の活性化などがある
- 拡張能の評価には僧帽弁口血流速波形と僧帽弁輪運動速波形が必要
- 左室拡張能はそれぞれの指標を参考に総合的に判断しなければいけない
- E/AとDCTのみで弛緩能の異常が分かるが、偽正常化パターンを区別することは困難
- ・偽正常化パターンを評価するにはE/e’と肺静脈血流速波形を用いれば良い
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