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はじめに
おばんです!!
今回は脳浮腫について勉強していきたいと思います!
脳浮腫は急性期において認められますが、
みなさんは脳浮腫についてどれくらい知っているでしょうか??
重度の脳浮腫の場合は、脳ヘルニアを引き起こし
重篤な脳損傷の原因になったり、最悪の場合は死に至ることもあります。
脳浮腫の病態や原因などを知っておくことで
臨床におけるリスク管理に活用できたり、
後輩・学生指導の際により具体的な指導が行えると思いますので
ぜひ最後まで見ていって下さい!!
// /脳浮腫とは?
脳浮腫の定義はこのようになっています
脳浮腫とは,さまざまな原因により脳実質の細胞外腔や細胞内に水分が異常に貯留し,脳の容積が増大した状態である.
脳浮腫 卜部貴夫
簡単に説明すると、
脳浮腫は”脳のむくみ”です!
この”むくみ”というのは脳以外でも起こりますが、脳と他臓器では少し違う点があります!
脳以外の他臓器における浮腫とは、
細胞間質(細胞と細胞の間)に水分が貯留することですが
脳浮腫では細胞自体にも水分が 貯留することがあります
その脳のむくみはどのようにして起こるか皆さん分かりますか??
脳浮腫というと、
”DWIとかT2Iとかで高信号になってれば脳浮腫でしょ?”
って思うかもしれませんが
調べてみるとそんなに単純なものではないようです!!
脳浮腫の原因や機序には何種類もの要素が絡んできて結構複雑です。
では、まとめていきます!!
// /脳浮腫の原因は多種多様!!

それでは、まず脳浮腫の原因についてまとめていきます!!
脳浮腫の原因となる因子は以下のようになります。
呼吸不全
心不全
腎不全
敗血症
代謝異常
中毒など
脳梗塞や脳出血以外でも脳浮腫の原因になり得るんですね!!
それでは、これらの原因がどのように引き起こされるのか…
脳浮腫の機序について学んでいくと理解できると思いますので
ここから下の項目も見てくれたら嬉しいです!
脳浮腫の機序は3種類!!
脳浮腫の発症機序は大きく分けて3種類!
みなさんは脳浮腫の機序が3種類もあるの知ってました?
僕は脳浮腫についてしっかり調べようと思うまで恥ずかしながら
こんなに種類があるなんて思いませんでした…
それでは脳浮腫の機序について説明していきます!
- 血管原性浮腫(vasogenic edema)
- 細胞障害性浮腫(cytotoxic edema)
- 間質性浮腫(interstitial edema)
こちらの3つです!!
少し、その歴史を紐解いていくと…
1967年:Klatzoが血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)の破壊の有無によって血管原性・細胞障害性の2種類に分類
1975 年:Fishmanが間質性浮腫(interstitial edema)を追加し3種類へ
このようになっています。
血管原性脳浮腫と細胞障害性脳浮腫についてはこのようなことが言われています。
両者は通常共存するが,独立して存在することはない
Klatzo I : Brain edema following brain ischaemia and the influence of therapy. Br J Anaesth 57:18―22, 1985
確かに脳卒中に関してはそうかもしれません!
それでは、ここからはその3型それぞれについて説明していきます!!
血管原性脳浮腫について
はじめに血管原性脳浮腫についてまとめていきましょう!!
血管原性脳浮腫は、
血液脳関門の破綻により血管透過性が亢進し血漿成分が 細胞外腔へ漏出し貯留することで生じる
と言われています。
血液脳関門がわからない方もいるかと思いますので、少し詳細に説明していきます!
血液脳関門とは?

脳の血管における関所のようなものです。
関所というと
血管と細胞の間に門のようなものがあるようなイメージになるかと思いますが、
実際は脳細胞を覆うように
毛細血管が網目状に張り巡らされています( tight junction )。
その中で、血管を構成している脳毛細血管内皮細胞というものが血液脳関門の役割を果たします。
通常、身体を巡る血管においては
細胞と血液との間で酸素や栄養などの物質が、比較的自由に移行していますが
脳組織においては、血液からの物質の移行を厳密に制限されています。
酸素などの気体は自由にやりとりされますが、
血液に溶け込んでいる物質に関しては、
血液脳関門に存在している
”輸送担体”という蛋白質によってでのみ通過することができます。
輸送担体(トランスポーター)は現在、約30種類認められているようです!
有名なものだと、グルコースやガラクトースなどの糖質を輸送するGLUT1です。
本題に戻ります。
このように厳密に物質移動を制限している機構ですが、
血管壁が損傷することで
血漿成分が細胞間質に漏れでます。
脳組織にはリンパ系が存在していないため、
蛋白成分の吸収ができずに
細胞間質の浸透圧がどんどん上昇していくため血管から水分を引き出してしまい
細胞間質に大量の水分が流れ込んだ結果
脳浮腫を呈してしまうのが、血管原性脳浮腫です!
細胞障害性脳浮腫について
細胞毒性脳浮腫とも言いますね!

細胞障害性脳浮腫は
頭部外傷や脳梗塞、心停止など多くの要因によって
脳が虚血状態(低酸素状態)になることで引き起こされます!
脳が虚血もしくは低酸素状態に陥ると、
脳が正常に機能するために必要な血流や正常な代謝機能が維持できなくなります。
正常な代謝機能が維持できなくなると、
グルタミン酸濃度の上昇が引き起こされます。
このグルタミン酸濃度の上昇は細胞毒性を引き起こすと言われていますが、
グルタミン酸が過剰に放出されると…
以下の2つの機構によって細胞死が起こります・
細胞外から細胞内へのCa2+の流入を促進
↓
分解酵素の活性化
↓
構造蛋白質・遺伝子・細胞膜破壊
↓
細胞死
細胞内へのシスチンの取り込み阻害
↓
細胞内システイン減少
↓
グルタチオンの枯渇
↓
酸化ストレス増大
↓
細胞死
グルタチオンとは?
中枢神経系における主要なラジカルスカベンジャー。枯渇すると細胞内レドックス状態のバランスが崩れ,酸化ストレスが生じ、神経細胞死が起こる
細胞内レドックスとは?
レドックス=reduction(還元)とoxidation(酸化)の合成語
分子における酸化還元反応による細胞機能(細胞の増殖、分化、細胞内での蛋白質合成や分解など)を調節している。
以上、これらの機序によって、細胞が障害された結果、細胞死が起こり、
細胞が自己融解・膨張して浮腫が生じます
これが細胞障害性脳浮腫と名付けられています。
以下は余談です!
このグルタミン酸の毒性というのは、脳虚血や外傷などの急性疾患だけではなくて、アルツハイマーやALSなどの慢性疾患おける細胞死にも共通するメカニズムと言われています。
グルタミン酸 田中光一
間質性脳浮腫について
最後に間質性浮腫についてです!
間質性浮腫というのは
脳室内の髄液の過剰な貯留によって
脳室内圧が上昇し、間質に漏出して引き起こされるタイプの脳浮腫です。
つまり、代表的な例としては”水頭症”によって引き起こされます。
水頭症とは?
理由を問わず髄液 循環路のどこかが閉塞したり通過障碍を起し,あるいは髄液が過剰に産 生され,結果として髄液産生吸収の平衡が破れて脳室拡大や脳圧充進を示す症候群
Pathogenesis of Hydrocephalus 水頭症の病態 松本悟
水頭症は様々な理由で生じます!
名前もたくさんあるため混乱してしまいそうです。
急性期においては
くも膜下出血や髄膜炎などで、髄液の吸収障害が生じ髄液が貯留する
”正常圧水頭症”(交通性)
脳腫瘍などが理由で髄液の循環路が閉塞されて起こる
閉塞性水頭症(非交通性)
などが多くみられます。
いずれ水頭症についても記事に書こうと思います!
脳浮腫の画像所見や臨床症状とは?
大まかに脳浮腫の種類について説明してきましたがいかがでしょうか?
最後は脳浮腫で引き起こされる画像所見や臨床症状についてまとめていきます!
画像所見については血管原性脳浮腫と細胞障害性脳浮腫の機序について知っていた方がより理解しやすいと思うので上の文字をクリックして戻ってみてください!
脳浮腫の画像所見
まずは画像初見から!!
脳浮腫の画像所見はCTとMRIで確認できます!
それぞれ順番に説明していきますね!!
CT画像における脳浮腫の所見
最初に、CT画像における所見について説明していきます!
CT画像は検査時間が短く、MRIと違い制限(体内金属があると検査できない)がありません。
MRIほど詳細に評価はできませんが非常に有用な検査です!
- 灰白質・白質コントラスト(濃度)の低下(細胞障害性浮腫)
- 血管性浮腫出現→更なる低濃度化と腫脹の出現
- 基底核(被殻、尾状核、淡蒼球)の濃度低下
- 基底核の輪郭不明瞭化
- 脳回の腫脹、脳溝の消失など
たくさん項目を挙げましたが、ものすごく簡単にいうと
非損傷側と見比べてみて
損傷側は梗塞・出血部位の周囲が
ボヤッとしていて、脳溝がわかりにくくなるのが脳浮腫の特徴です。
MRI画像における脳浮腫の所見
次はMRI画像における所見についてですが、
細胞障害性浮腫と血管原性浮腫の発生機序の違いで
所見が変わってきます!!
・DWI(拡散強調画像)にて高信号
・ADCマップにて低値(黒くなる)
・T2WI(T2強調画像)で所見なし
※慢性期においては
- DWI低信号
- ADCマップ高値
- T2WI高信号
この違いは下で説明します!
・DWIで所見なし
・ADCマップにて高値(白くなる)
・T2WI(T2強調画像)にて高信号
この所見の違いは
細胞障害性脳浮腫と血管原生脳浮腫の機序の特徴と
DWIやADCマップの原理によって説明できます!!
詳細は別記事にも書こうと思いますが、
まず、DWIは細胞間質における水分の拡散のしやすさをもとに描出します!
正常時は脳細胞はこのような状態ですが…

細胞障害性脳浮腫の場合はこのように水分が拡散しにくい状態になります

細胞が膨張
↓
細胞間隙が狭くなる
↓
拡散が低下
反対に
血管原性脳浮腫においては水分が拡散しやすい状態になります

血管透過性亢進
↓
細胞間質への流入増大
↓
細胞間隙拡大
↓
拡散上昇
機序の違いによってこのような状態になるため
MRI画像所見において違いが生じます。
ちなみに細胞障害性脳浮腫が慢性化した場合は
細胞の構造が破壊され、水分が外に出て増えることで、T2WIが高信号となります。
ADCとは
apparent diffusion coefficientの略です!
DWIでは、T2(T2 shine through) とT1が影響を及ぼすため
これらの影響を排除したものがこちらのADCになります。
ただし、純粋な細胞間質内の拡散以外に
毛細血管の血流や軸索流、体動などのその他の影響は排除できません
そのため「見かけの=apparent」と呼ばれています。
簡単にいうとADCマップは水分子の動きをみているため
細胞性脳浮腫(急性期)では…
拡散できる水分子が少ないため低値を示します
血管原性脳浮腫では…
拡散できる水分子が増えるため高値を示します。
この違いを把握していると、
脳卒中以外の疾患によって脳浮腫を生じている場合の予後予測にも使用できます!
一過性可逆性脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome;PRES)と呼ばれていますが、これは上でお話しした感染症や高血圧など多彩な要因によって引き起こされます!
下記の論文において
血管原性脳浮腫の場合は,可逆性のことが多いとされる
Posterior leukoencephalopathy without severe hypertension : utility of diffusion-weighted MRI. Neurology 51 ; 1369―1376 : 1998 Ay H, Buonanno FS, Schaefer PW, et al
このように言われていますので、
その脳浮腫が脳卒中によるものなのか
それ以外の疾患によって引き起こされているのか
この点についてMRI画像から判断できると、
臨床における予後予測に役立てられるのではないでしょうか?
さて、少し難しい話もしましたが、理解が深まったでしょうか??
次で最後です!
脳浮腫の臨床症状
最後に脳浮腫によって引き起こされる症状について説明します!
脳浮腫の初期症状としては
頭蓋内圧亢進症状が出現します。
それが以下の3つになります!
- 頭痛
- 嘔吐
- 鬱血乳頭
さらに進行することで
- 意識障害
- 高血圧・徐脈(クッシング現象)
- 瞳孔不同
- 除皮質硬直・除脳硬直
- 呼吸異常など
これらの症状が出現します!!

意識障害以下の項目については脳ヘルニアに陥っている場合が多いですが
脳ヘルニアについてはリスク管理も含めて別の記事でまとめていきます!
急性期において広範囲の脳浮腫を呈しているような患者においては
上記の症状を確認しながら介入していく必要がありそうです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
脳浮腫といっても調べてみると本当に奥が深かったですね!
脳浮腫だけでなく、脳画像の見方や脳ヘルニアについても勉強をするとよりお互いの理解が深まると思いますので少しご自分でも調べてみてくださいね!!
それではまとめです!
・脳浮腫には”血管原性浮腫””細胞障害性浮腫””間質性浮腫”の3種類ある
・”血管原性脳浮腫”には血液脳関門が関与している
・”細胞性脳浮腫”にはグルタミン酸濃度の上昇が関与している
・MRI画像において”血管原性浮腫”と”細胞障害性浮腫”の所見は違う
以上です!
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