はじめに
おばんです!!
今回は大脳基底核について学んでいきましょう!!
大脳基底核は、ある行動を行うことによってどのような成果が得られるかを予測し、 その成果と予測とが一致するようになるまで運動を変化させ、習得した運動を記憶・再現する強化学習に基づ いて運動学習に関与する
長 谷 公 隆 :運動学習理論に基づくリハビリテーション 四條畷学園大学 リハビリテーション学部紀要 第 9 号 2013
大脳基底核の機能についてはこのように言われていますが
この部分だけを読んで理解しただけになるのは少し気が早いです!!
なぜなら、
基底核は数種類の基底核細胞の集団で構成され
各細胞によって関係する神経路が違い、作用も違います!
各細胞や神経回路を理解していないと
臨床に応用できなくなる可能性が!
それは少し寂しい!!
どうせ勉強するなら日々の臨床にも活かせる段階まで引き上げていきましょう!
今回はベースとなる解剖的な知識からまとめていきます!
大脳基底核について学び始めようと思った方にはおすすめ!!
では一緒に勉強していきましょう!
// /大脳基底核の解剖

基底核は大脳皮質下にあり,大脳皮質,視床, 脳幹と結びついた一群の細胞集団である.
Saito N, Mushiake H, Sakamoto K, et al:Representation of immediate and final behavioral goals in the monkey pre-frontal cortex during an instructed delay period. Cereb Cortex 15:1535-1546, 2005
この文献で説明している細胞集団とは,
- 尾状核
- 被殻
- 淡蒼球
- 黒質網様部
- 黒質緻密部
- 視床下核
これらから成り立っています!
これらの細胞の集団は
大脳皮質はもちろん、
視床や脳幹など多種多様な領域と入力・出力の経路を構成!!
この入出力1つ1つが私たちが生活をする上では非常に重要です!
水平断における位置関係はこちらになります!!

図
それでは
これらの基底核細胞と大脳皮質・視床などの領域が
どのような神経回路を構成していくのか確認してみましょう!
大脳基底核によって構成される神経回路

「この手の話は苦手だな~」という方も多いでしょうか?
自分もしっかり勉強する前は基底核回路についてはそんな印象!
でも入力と出力を分けて考えてみるとシンプルになってわかりやすいですよ!
それでは、まとめていきます!!
大脳皮質から入力を受ける細胞は2つだけ!
まずは大脳皮質からどこに入力されるのかを整理しましょう!
全ての基底核細胞に入力されると思いきや
実は大脳皮質から直接入力を受けるのは2つだけです!
- 線条体(尾状核+被殻)
- 視床下核
この2つになります!!
この2つの細胞を経由して
他の基底核細胞や視床とのループを構成します!
大脳ー基底核回路には3つの回路がある
先ほどの大脳皮質から直接入力される
- 線条体
- 視床下核
この2つの基底核細胞を中心に
基底核回路は3種類に大別されます!
線条体経由の回路が2つ!
視床下核の回路が1つ!
合計で3つの大脳−基底核回路になります!!
✔︎要チェック!
線条体は
背側線条体:大脳新皮質から興奮性入力を受ける
腹側線条体:大脳辺縁系から興奮性入力を受ける
大脳皮質前頭前野と辺縁系ループ回路を構成
情動と行動を結びつける細胞
このように2つに分けられており
背側か腹側かで形成するループやその機能も違ってきます!!
話を戻しましょう!
大脳皮質-基底核ループを構成するのは
直接路
間接路
ハイパー直接路
これら3つの回路が存在します。
この3つの神経回路を駆使することによって
僕たちが適切なタイミング・強度で運動したり
余計な運動が出ないよう抑制されています!
直接路・間接路・ハイパー直接路で運動がコントロールされる
1つずつ説明していきます!
大脳皮質→線条体(D2受容体)→淡蒼球外節→視床下核→淡蒼球内節/黒質網様部→視床/脳幹
大脳皮質→視床下核→淡蒼球内節/黒質 網様部→視床/脳幹
図にするとこんな感じです!!

はじめにどの回路が興奮性・抑制性の作用があるのか教えちゃいます!
なぜそうなるかは後ほど!!
直接路:興奮性
間接路:抑制性
ハイパー直接路:抑制性
詳細は下へ!
直接路は興奮性の回路
直接路は…
- 線条体から淡蒼球内節/黒質網様部へ抑制性シナプス
- 淡蒼球内節/黒質網様部から視床へも抑制性シナプス
直接路は視床・脳幹を抑制するための淡蒼球内節と黒質網様部を抑制
つまり,視床/脳幹は脱抑制状態となります!
そして,視床の先に大脳皮質も抑制が解かれるので
その場で必要な動きが引き出されます!
まとめると…
直接路全体の効果としては
”興奮性”になります
間接路やハイパー間接路は抑制性
一方、ハイパー直接路や間接路は…
淡蒼球内節・黒質網様部の興奮性を高めるため
視床/脳幹の抑制が強くかかるので
主な効果は
”抑制性”になります
この2つの違いとしては、
- 経由している細胞の数
- 抑制シナプスの数
これらが違う為、伝達速度・抑制効果の点で異なってきます!!
伝達速度の順番としては…
ハイパー直接路(抑制)
↓
直接路(興奮)
↓
間接路(抑制)
上から順に伝達速度は遅くなります!
3つの基底核回路で運動はどのようにコントロールされるのか
上で各回路の伝達速度について言及していますが
この伝達速度の違いが私たちが運動コントロールをする上では非常に大切!
大脳皮質の信号は先ずハイパー直接路を興奮させ,大脳皮質や脳幹の活動への抑制を強化する.次いで直接路が基底核の出力を減少させるため大脳皮質や脳幹が活動する(脱抑制).最後に,間接路が働き大脳皮質や脳幹への抑制が強化される.この仕組みにより,大脳皮 質における不必要なプログラムは抑制され,必要なプログラムが正確なタイミングで遂行される.
高草木 薫:大脳基底核による運動の制御 臨床神経学 49巻6号(2009:6)
- ハイパー直接路
意図したタイミングより先に運動が先走らないよう抑制 - 直接路
運動を発現させる - 間接路
実行した運動を停止させる
ざっくりだとこんなイメージの役割分担でしょうか
間接路とハイパー直接路に関してはさらに驚きの作用が!!

図でも分かるように
ハイパー直接路や間接路は
視床下核を通してその経路が幅広くとられているのが分かると思います!
直接路は、淡蒼球内節・黒質網様部のうち、必要な運動に関連している領域を抑制し、その結果、視床を脱抑制することによって必要な運動のみを引き起こす。
ハイパー直接路・間接路は、淡蒼球内節・黒質網様部に、時間的・空間的に広い興奮をもたらす。
その結果、視床の中央部においては、運動の開始と終了を明確化するとともに、視床の周辺部においては抑制を強め、不必要な運動を抑制している。
Nambu A, Globus pallidus internal segment. GABA and the Basal Ganglia: From Molecules to Systems. Prog Brain Res 2007; 160: 135-150. Elsevier, Amsterdam.
以上から
ハイパー直接路と間接路は…
運動の開始と終止を明確にするだけでなく
不要な運動を抑制することで本当に必要な運動のみを引きだしてくれます!
大脳基底核の機能・役割
では次は、機能や役割について!!
一般的に大脳運動皮質−基底核回路の機能としてはこのように言われています!!
大脳皮質で計画された運動プログラムに基づいて、必要な運動を促通し、不要な運動を抑制する意思決定(decision making) の役割を担っており、運動順序の学習、運動プログラム の抽出・切り換えを行う。
長 谷 公 隆 :運動学習理論に基づくリハビリテーション 四條畷学園大学 リハビリテーション学部紀要 第 9 号 2013
大脳基底核の機能についてまとめるには
基底核回路には入力される大脳皮質領域の違いや作用によって
数種類のループに分類されていることを理解しておく必要があります!!
図はこちら!


これらの大脳皮質−基底核ループは
Alexander らが 1986 年に提唱しました!!
それぞれの特徴を挙げていきます!!
運動系ループ
- 大脳皮質運動関連領域と主に被殻とを結ぶループ
(一次運動野,補足運動野,運動前野, 前補足運動野,帯状皮質運動野) - 主に淡蒼球内節から視床腹側核群(外側腹側核や前腹側核)を経由して補足運動野・運動前野・一次運動野へと戻る
- 顔面・四肢、体幹の筋群などの運動機能に関与する
- 脳幹における橋脚被蓋野(PPN)への投射あり
→この経路は筋緊張や歩行運動の調整に関与すると考えられている - サブループあり
✔︎要チェック!
大脳皮質運動関連領野において,大脳皮質―基底核回路の基底核回路は複数存在することが知られている. 上肢の運動関連では,一次運動野,運動前野,補足運動野などがある.
虫明 元ら:運動学習 ―大脳皮質・基底核の観点から 総合リハ・36 巻 10 号・2008 年 10 月
運動系ループは種類が豊富です!
Alexanderらの提唱した運動ループには
図のように補足運動野しか表記されていませんが…
色々な種類のループが存在します!
運動系ループには四肢や体幹の運動機能に関与するメインのループに加えて…
◉一次運動野から始まるサブループ
運動遂行(運動量や運動速度)に関与する
◉運動前野・補足運動野と基底核とを結ぶサブループ
運動プログラムや運動準備など に関与する
これらのサブループがあると言われています!!
自分が調べた範囲でも関連領野の数だけループが存在しました!
- 運動感覚系ループ
- 固有補足運動野(SMA-proper)系ループ
- 前補足運動野(pre-SMA)系ループ
- 運動前野(PM)系ループなど
気になる方は自分でもチェックしてみましょう!
眼球運動ループ
- 衝動性眼球運動(Saccades:サッケード)を制御するループ
- 衝動性眼球運動とは急速な注視運動のこと
- 前頭眼野と頭頂葉後部線維から始まる
- この回路は主に垂直性の衝動性眼球運動を制御している
前頭眼野からの情報は中脳上丘を経て
動眼神経と滑車神経へ入力し垂直方向の眼球運動を制御している - 頭頂葉後部線維は眼球運動の速度と方向などの視覚情報を処理する働きあり
連合系ループ(前頭前野ループ・眼窩前頭皮質ループ)
- 眼窩前頭皮質ループは意思決定に関与する
- 前頭前野ループはワーキングメモリ・遂行機能に関与
- 前頭前野ループは前補足運動野などのループとともに
視覚ループとも呼ばれている→運動学習において重要なループの一つ!
【必見!!】運動学習の理論やメカニズムについて分かりやすくまとめたよ!!脳機能・神経機構編
辺縁系ループ(前部帯状回ループ)
- 辺縁系 (扁桃体,海馬,視床下部,側頭葉など)からの興奮性入力もある
- 情動機能に関与する
- 同時に腹側被蓋野からのドーパミン作動性入力も受けている
→ドーパミンによる動機付けや報酬を通して強化学習の可塑性に関与する - 前頭前野系ループと共に,認知情報の評価,情動や感情の表出,意欲などの高次脳機能や精神活動に関与
強化学習における脳機能についてはこちらの記事で説明しています!!
大脳基底核疾患の病態・メカニズムについて

最後に大脳基底核の損傷や異常によって生じる疾患について簡単にまとめていきましょう!
大脳基底核疾患は大別すると2種類に分類されます!!
- 運動減少症(hypokinetic disorder)
- 運動過多症 (hyperkinetic disorder)
この2種類!!
大脳基底核疾患の病態は
ハイパー直接路
直接路
間接路
これらの活動性のバランスが崩れます
それでは、それぞれの病態について確認していきましょう!!
運動減少症(hypokinetic disorder)
運動減少症とは,簡単にいうと無動・寡動を来す疾患のことです!
この時点でわかる人もいるかと思いますが…
基底核疾患のうち運動減少症に分類される疾患はたった1つ!!
パーキンソン病
運動減少症には”パーキンソン病”が該当します!!
よく聞く名前の疾患ではないでしょうか?
有名なのは”4大徴候”と呼ばれる症状!
- 振戦
- 筋固縮
- 無動・寡動
- 姿勢反射障害
これらの症状はどのようにして生じるのでしょうか?
流れをまとめるとこんな感じ!
黒質緻密部のドパミン作動性ニューロン変性・脱落
↓
直接路の活動性低下とハイパー直接路・間接路の活動性亢進
↓
淡蒼球内節・黒質網様部の抑制が減少
↓
視床の脱抑制が減少
↓
運動が発現しなくなり,無動が生じる
パーキンソン病を発症するきっかけとして…
黒質緻密部のドパミン作動性ニューロン変性・脱落
この機序については解明されていない部分が多いようです!
あるタンパク質がドパミン作動性ニューロンの酸化を引き起こすらしいですがまだ検証段階!!
今回は、このような流れで”無動・寡動”が生じることを覚えていってください!
さらに
この症状が生じるのは運動ループだけではありません!
他のループでも影響が!!
認知障害
行動障害
これらが出現します!
パーキンソン病の場合だと…
- 手続き記憶障害
- 遂行機能障害
- 視知覚・認知障害(幻視・色残像)
- 社会的行動異常(情動認知・意思決定・心の理論)
これらの症状が出現します!!
詳細はいつかパーキンソン病についてまとめた記事でお伝え予定!
運動過多症 (hyperkinetic disorder)
次は”運動過多症”について!
“運動過多症”は簡単に説明すると
”不随意運動を伴う疾患”
基底核回路において
直接路
間接路
ハイパー直接路
この3つがバランスのとれた状態であれば不要な収縮が生じることがありません。
何らかの要因によってこの均衡が崩れることで生じます
このタイプの疾患は数種類存在!!
ハンチントン病
ハンチントン病は不随意運動と認知症を主症状とする神経疾患である
Huntington G. On chorea. Med Surg Report 1872;26:317- 321.
ハンチントン病は優性遺伝疾患であることが既に知られています!
その症状としては…
- 不随意運動
- 舞踏運動(手足を出したり、舌を出したり引っ込めたりなど)
- 構音障害
- 巧緻障害など
若年齢ではパーキンソニズムを呈する場合もあります!
基底核回路にどのような変化が生じて上記の症状が出現するんでしょうか?
線条体の間接路ニューロンが脱落
↓
間接路からの抑制性シグナル減少
↓
視床の脱抑制が亢進
↓
運動過多
パーキンソン病と同様で人格や認知機能にも影響をきたします!
◉人格
短期で怒りやすく、物事に固執しやすくなるのが特徴
◉認知機能
注意障害、記憶障害、遂行機能障害
ヘミバリスム
出血や梗塞によって視床下核が障害されることで発症します!
対側の上下肢近位部の粗大運動が特徴!
これは一時的なもので時間経過と共に消失してしまうようです!
視床下核損傷
↓
ハイパー直接路・間接路を介した抑制シグナル減少
↓
視床脱抑制亢進
アテトーゼ
アテトーゼは,緩徐でねじるような動きが特徴です!!
ジストニアとの移行型や,舞踏運動との移行型があり,定義は難しい.原因疾患も,舞踏病,ジストニア同様に数多くあり,小児麻痺の患者でもこの病態を示すことが有名である.
宇川 義一:ビデオでみる不随意運動の基礎 臨床神経 2012;52:827-831
主に脳性麻痺において認められる不随意運動のようです!!
線条体や視床下核、黒質に異常をきたした結果”運動過多”が生じます!
ジストニア
ジストニアは不随意運動が出現するのはもちろん
姿勢異常が特徴的な疾患です!
有名なのは,”痙性斜頚”
頚部がずっと傾いていた姿勢で過ごします
- 本態性ジストニア
- 遺伝性ジストニア
- 職業性ジストニア
- 動作特異性ジストニアなど
様々な種類に分類!!
直接路の活動性亢進
↓
淡蒼球内節・黒質網様部の抑制亢進
↓
視床の脱抑制亢進
↓
運動過多
パーキンソン病などと違って,
認知機能については問題が出ないのも特徴!
ですが、痙性斜頸の経過が長いと…
頸椎が変形し脊髄を圧迫することで運動麻痺や感覚障害が出現します
まとめ
基底核の解剖や機能については以上になります!!
基底核回路は運動学習においても非常に重要なのでそちらも確認しておくといいですよ!
【必見!!】運動学習の理論やメカニズムについて分かりやすくまとめたよ!!脳機能・神経機構編
それでは本記事のまとめです!!
- 基底核は大脳皮質下にあり,大脳皮質,視床, 脳幹と結びついた細胞集団
- 大脳皮質から入力を受けるのは、線条体と視床下核
- 基底核回路には直接路、間接路、ハイパー間接路の3つの神経回路が存在
- 直接路→興奮性回路
- 間接路・ハイパー間接路→抑制性回路
- 基底核ループは大きく分けると5種類存在する
- 運動系ループはサブループなども合わせると数種類にも及ぶ
- 視覚ループや辺縁系ループは運動学習に重要な神経回路
- 大脳基底核疾患には”運動過多症””運動減少症”の2種類に分かれる
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