はじめに
療法士は私を始めほとんどの場合、初めて患者さんやそのご家族と対面した時にリハビリの必要性なども含めて初回介入を行うと思います。
その際に、「今日から起きましょう!」と伝えると、大抵の方からは「もう起きるんですか!?」と返されることが少なからずありませんか?
その時に、離床においての安全性に加えて、そのメリットを自信をもって話すということは患者やご家族の不安感を払拭することに繋がります。
そこで、今回はリハビリテーション、特に脳卒中分野における早期離床・介入の理論的な背景を学んでいきましょう!!
メリット①中枢神経の廃用を予防できる
脳卒中を発症し、その後何もしないでいると、3つの廃用症候群が出現します。
・中枢神経で生じる廃用
・末梢の骨格筋・関節の廃用
・循環器系の廃用
この3つの廃用が出現すると言われています。
まず、早期介入のメリットとしては廃用予防が挙げられるでしょう。
今回は、脳卒中のための早期介入の理論的な背景を学んでいきたいので、まずは廃用予防について学んでいきます。
中枢神経の廃用ってまず何なの?って思っている方もいると思いますので、理論的な背景も含めて学んでいきます。
不使用の学習(learned non-use)
これは医療の現場だけでなく一般の方々でも様々な場面で経験することがあります。
昔やっていた運動や細かい作業などを久しぶりに行うと、「あれ?なんか上手くできないな??」とか「昔はこれくらいじゃ疲れなかったのにものすごく疲れた」ってことがありませんか?。
私たちの身体機能や心肺機能は使わなくなった途端にその機能が急激に下がり始めるんです。
それと同様のことが脳卒中の方にも起きていますが、
さらに問題となってくるのが脳損傷後によって自分の意志で使用できない箇所(腕と手指など)が出現し、その箇所を司っている脳の領域がその他の領域に侵食され始めることです。
サルの正中神経を遮断,2ヶ月に正中神経領域を触れても神経の反応はないが,橈骨・尺骨神経領域に触れると正中神経領域の神経細胞が発火 Merzenich M,1983
サルの中指を切断すると数ヶ月後に示指と環指の領域が中指の脳領域に進出 Merzenich M,1984
対象がサルでありますが、この研究がきっかけとなって「不使用の学習」が世間に認知されるようになったそうです。
ゆえに、脳の運動野においても廃用性の変化は生じると考えられています。
また、2001年にはNudoの研究によって、この「不使用の学習」に対する有効な介入方法なども明らかになってきます。
手指を使用しない場合,手指の運動野は縮小する 手指を強制的に使用させた場合,肘・肩の運動野だけでなく,手指の運動野の領域が拡大 Nudo,Mol Psychiatry 2001から引用

この研究はサルの前脚を司っている脳の領域に脳梗塞を起こし、運動麻痺を引き起こします。そして、そのサルに麻痺側の手指を用いてエサ入れからエサを取る課題を反復させました。
強制的に麻痺側を使用させることで、課題の技能が向上し、脳神経細胞の再組織化が得られたとのことです。
ただ、注意しないといけない点として麻痺側をただ強制的に反復させるだけでは不適切です。
Erikらによる研究において,
難易度調整をしないで反復運動を行なった群と難易度調整をした群で脳の領域の回復を検討した結果、、、
難易度調整をした方が手指と手指の運動に複合的に関わる関節を司っている領域が増加し、調整しなかった群はかえって領域が減少したという報告があります。
Erick J.Plautz,Garrett W.Miliken,andRandolph J Nudo. Effects of Repetitive Motor Training on Movement Representations in Adult Squirrel Monkeysより引用
以上が、中枢神経の廃用についての理論的な背景になります!
普段私たちは正常な動作に近づけた状態での運動を引き出すために介助をおこなったり、装具を使用したりすることがほとんどですが、、、
実際の臨床現場で使うかは別として、こういった理論的な背景も頭に入れた上で、患者にとってその介助法、装具や杖の設定が適切な難易度なのかというところにも気をつけて評価しながら介入していくことが必要です。
メリット②神経組織の回復を促せる
早期のリハビリテーションの介入は廃用予防だけでなく、障害された神経領域の改善を促進します。
次はその理論的な背景を説明していきます。
Critical time Window(重要な時間的枠組み)
訳すとこんな感じでしょうか?
この考え方を簡単に説明すると、
脳梗塞発症から2~3週間以内が組織の再組織化を最大限引き出されるよ
っていう考え方です。
マウスの脳虚血モデルでは5-14日に開始した群では機能がより回復する. Biernaskie,J Neurosci,2004
サルの脳虚血モデルにおいて,発症から1ヶ月以降からの介入群では,手指の運動野(M1)支配領域は50%萎縮し,運動によって萎縮を克服できない. Barbay S,Nudo RJ,Exp Brain Res,2006
これらの研究をもとにして考えられています。
早期の介入によって運動野の萎縮を防ぎ、運動機能の回復を図ることが重要になってくるようです。
メリット③急性期までの時期にしか改善しないものがある
メリットとは言えないかもしれませんが、脳卒中後の運動麻痺を改善するためには期限というものが存在します。急性期にしか、改善させることができないのです。
最後は、各病期における中枢神経の回復段階について学んで終わりにしましょう。
運動機能回復のステージ理論
言わずもがな、脳卒中の領域では有名な理論だと思いますが、覚えてますか??
たぶん、僕も含め「始めの1~3ヶ月がものすごく良くなって、6ヶ月以降は回復しない」
って思い浮かべる方が多いんではないでしょうか?
この理論は、その期間ごとに脳内がどんな状態で回復しているのかを表しています。
脳卒中のリハビリテーションはこの理論に基づいてそれぞれの病期に当てはめた介入を選択していく必要があります。
このステージ理論は3つのステージに別れます

以下で出てくる文献は、図を引用させていただいている上の原先生の文献から引用しています。
1st stage
皮質脊髄路を刺激しその興奮性を高めることで (cortico - spinal excitability ),麻痺の回復を促進する時期となる (1st stage recovery ).
→つまり、残存する皮質脊髄路を促進する時期にあたります。
さらに原先生は、
残存している皮質脊髄路の興奮性を効果的に刺激するリハビリテーションが 実施されるならば,この1st stage メカニズムにより運動麻痺の回復が完結する可能性が示唆される.
とも述べており、軽度の運動麻痺を呈した患者に関してはこの時期に効果的に練習を行うことの重要性を述べています。
2nd stage
皮質脊髄路の興奮性に依拠するのではなく, 皮質問の新しいネッ トワークの興奮性(intracotical excitability )に依拠する時期であり,3カ月をピーク にこのメカニズムが再構築される(2nd stage recovery )。 この時期は皮質間の抑制が解除される(disinhibitionことにより生じる回復メカニ ズムが機能する.代替出力としての皮質ネッ トワークの再組織化 (reorganization )が 構築され,残存している皮質脊髄路の機能効率を最大限に引き出す中枢指令として機能する.つまり大脳での組織的再構築がなされる時期である
→つまり、簡単に要約すると、、、
皮質間のネットワークの興奮性が高まる時期
がこの期間にあたります。
うまく、麻痺側へ刺激を入力することで麻痺側の随意的な運動を引き出すことが可能になる一方、
この時期から筋緊張の亢進も高まってくると言われているので、ただ、がむしゃらに動かすのではなく、筋緊張を亢進させてしまうような練習や環境設定は行わないようにしましょう。
3rd stage
その後6カ月以後も持続して徐々に強化される機能は,リハビリテ ーションにより惹起されるシナプス伝達の効率化 (training induced synaptic)であるとされる(3rd stage recovery ) つまり2nd stageにより構築された新しい代替のネットワークについて、そのシナプス伝達が効率化されることにより出力の ネッ トワ ークにおいて、一.層強化され , そして確立される時期であると結論される .
→発症から3ヶ月以降の介入に関しては、急性期などで興奮させたネットワークを効率的に運動させる練習や指導を行なっていく必要性があります。
まとめ
いかがだったでしょうか?
これで初回介入時に患者本人やご家族への挨拶の時でも、自信を持ってお話しすることができるんではないでしょうか??
もしよかったら頭の片隅に入れておいてください。
それでは、まとめいきますね!
急性期から介入すれば、、、
- 廃用による神経領域の最狭化が防げる
- 神経組織の再組織化が最も促進される
- 残存している皮質脊髄路の興奮を高め麻痺の改善を促進できる
以上です!
お疲れ様でした~~~!
またの訪問をお待ちしております♪
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