この現象のせいで介入に難渋!? Pusher現象ってなんなの?

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そもそもPusher現象って何?

脳卒中後に出現する姿勢調節障害の1つです。海外ではcontraversive pushing(意味:病巣側と反対側へ押す)と表現されています。

日本では網本和先生が述べられていたPusher現象という呼び方を普段臨床で使用している人が多いんではないでしょうか?

さて、これからPusher現象について勉強していくわけですが、

まずはじめにその定義がどうなのかを調べましょう。

Pusher現象は1985年にDavis

「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し、自らの非麻痺側上下肢を使用して床や床面を押して、正中にしようとする他者の介助に抵抗する」

と述べてます。

ちなみにDavisは運動麻痺や感覚障害、半側空間無視などの複数の症状を伴うため“Pusher syndrome”と記述したそうですが、その後の疫学調査で症候群とする明確な根拠がなかったため上記の“contraversive pushing”などと呼称されるようになったとのことです。

出現率は文献によって様々のようですが、急性期に多く認めると言われており、急性期におけるリハビリを進めるにあたっては介助量の増大を引き起こし、積極的な機能練習への障害にもなります。

実際に急性期の脳卒中を担当するような療法士の方やそのような実習先に行った学生は分かるかもしれませんが、最重症の方だと静的・動的関係なく横になっている以外は常に健側の手足で強く突っ張ってしまって座位をとらせることも難渋してしまいます。

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どうして脳卒中後にPusher現象が出現するの?

先に述べてしまいますが、メカニズムについてはまだ解明されていません。

阿部浩明先生はご自身の論文で

垂直を知覚する過程のどこかで 異常が生じていると推察される。

と記述しています。

解明されてはいないものの、やはりどのようにしてPusher現象が起こっているのかを全くの無知ではいられないと思いますし、先輩たちがなぜあの練習をしているのかもチンプンカンプンとなってしまうので、ここでは少し今までの先生方がどのような見解を示しているのかを文献を引用して勉強してみようと思います。

文献を見ていく前に、引用部位に記載されている用語についての解説を簡単にしますね。

下記で引用させていただく先生方はPusher現象についての検証をしていく中で垂直を知覚するための主観的な評価を使用しており、

  • 視覚的な垂直判断(subject visual vertical:SVV
  • 身体的な垂直判断(subject postural vertica1:SPV
  • 触覚的な垂直判断(subject haptic vertical: SHV)

この3つが登場します。

それぞれが私たちが垂直判断をする上で感じている感覚であり、これらを統合して垂直を判断しているわけです。

 

それでは、用語の予習も済んだところで文献を見ていきましょう!

Pusher patients experience their body as oriented “upright” when it is tilted 18 degrees to the nonhemiparetic, ipsilesional side. In contrast, perception of the SVV was undisturbed.

Karnath et al:The origin of contraversive pushing: evidence for a second graviceptive system in humans.

Pusherの患者は、非有痛性の病変側に18度に傾けられた時、身体を「直立」に向ける。対照的に、SVVの知覚は乱されなかった。

視覚的な垂直判断に関しては異常はみられなかったという見解です。

臨床的には目をつぶった時とそうでない時とではPushingの程度に違いが出ているように感じることもありますが、、、

一概には言えないということですかねぇ。

うーん、初めからなかなか考えさせられました。

Patients with a ‘pushing’ behaviour showed a transmodal tilt of verticality perception and a severe postural vertical tilt. 

Perennou DA Mazibrada G et al. pushing and verticality perception in hemisphere stroke: a causal relationship?

Pushing動作を有する患者は、垂直認知のtransmodal(特異的な感覚入力を統合していく)な傾きと重度の身体的垂直の傾きを示した。

わかりづらい訳だったらすみません。。。

この研究はPusher現象を認める患者や姿勢異常を認めない人などを対象にしてSVVSPVSHVを評価したものです。

Pusher現象を有している方は身体的な垂直認知に異常があるとの見解ですね。

視覚的な認知や感覚的な認知に関しては有意差はなかったようです。

他にも色々な研究内容が調べると出てきますが、記事の文字数がとんでもないことになりそうなのでこれくらいにします。

上の論文だけをみると身体的な垂直判断が重要そうな気がしますね。

全く違った見解や視覚的な垂直認知が傾いている症例があるという報告もあるようなので一概には言えないですが。。。

あとは実際の臨床場面で評価できる環境があるのなら少し挑戦してみるのもいいかもしれません。

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Pusher現象はどこの病変で出現するの?

次は私たちが介入前に情報収集をする上で重要になってくる脳画像です。

運動麻痺は放線冠や内包後脚といった具合にPusher現象にもその原因と思われている部分がありますが、原因はここです!と断定されてはいません。Pusher現象を引き起こす病変部位は多岐にわたりまして、、、

Johhansenらは,視床後外側部病変,視床以外では島後部と中心後回の 皮質下を 特異的な病変として報告しています。

臨床現場においては上の病変部との位置関係から被殻出血、巨大皮質下出血などで認められることが多いような気がします。

左右の病変でPusher現象に何か違いはある?

高次脳機能の中には左右どちらかがよりその症状が出現しやすいと教科書などに書かれています。

学生の方の中には学校の試験や国家試験に向けて「この障害は右で~、これは左!」などと覚えている人もいるんではないでしょうか?

Pusher現象にも左右で重症度や改善の傾向に違いがありますので覚えていってください。

Sixty percent of the recent stroke patients had an initial inaccurate perception of verticality, and 39% of these patients recovered during the 1st 3 months after stroke. The evolution of VV tilt depended on the side of the lesion (P = 0.01), with better recovery in LL patients. None of the other factors studied affected VV normalization. 

最近の脳卒中患者の60%は、最初の不正確な知覚を有し、患者の39%は脳卒中後最初の3ヶ月間に回復した。VV傾斜の進展は病変の側面に依存し(P=0.01)、LL患者においてより良好な回復を示した。研究されたそのほかの要因のどれもが正常化に影響しなかった。

The poorer recovery of vertical perception after right-side stroke might be due to the predominant role of the right hemisphere in spatial cognition, and might be involved in the poorer recovery of balance after stroke in RL patients.

Bonan IV, Leman MC, et al.: Evolution of subjective visual vertical perturbation after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2006; 20: 484491.

右側脳卒中後の垂直認知の貧弱な回復は、空間認知における右半球の主な役割に起因する可能性があり、RL患者における脳卒中後のバランスの改善が乏しくなる可能性がある。

解説すると左則の病変によりPusher現象が出現した人より右側の病変によりPusher現象を認めた人の方が重症であることが多く、現象の消失までの期間が長いということです。

文献にも書かれていますが、右側(特に頭頂葉)は空間を認識するための機能が集中しているので半側空間無視など空間を認識する機能の障害が起こりやすいです。

ちなみに、進化の過程では初めは左右で空間認識の機能は偏ってはいなかったそうです。それを我々の祖先が手を使って狩猟や調理などを行うようになり、空間認知は右側へ集約されていったんだとか。

臨床ではたまに左利きの方が左側の病変で重度の半側空間無視などを呈することがありますが、こういったことも関連しているのかな?と考えると少しは勉強も楽しくなるかもしれません。

Pusher現象の評価にはどんなものがあるの?

Pusher現象の背景がなんとなくわかったところで今度はPusher現象の評価を行なっていきましょう!

SCPscale for contraversive pushing

Pusher現象を評価する上ではこれが一番に出てくるかと思います。Pusher現象に対する治療報告などで引用される数も多いですし、感度と特異度が検証され,高い測定再現性と妥当性が報告されています。

SCPは下記の3つの下位項目からなります。

A:自然な姿勢の対称性

B:非麻痺側上下肢の伸展

C:他動的な姿勢の矯正に対する抵抗

座位姿勢と立位姿勢に分けて、それぞれこの3項目について評価します。

最重度の場合は6点です。

それぞれ各項目が1点以上であればPusher現象陽性と言われています。

Johanssen らの報告20)にある特徴的な leg orientation が観察 される.足のつかないような状態で座位保持し, 体幹を正中にした際の下腿の傾斜を観察すると判断しやすい。

Burke Laterupulsion ScaleBLS

A:寝返り B:座位 C:立位 D:移乗 E:歩行の5項目

AEの合計が2点以上で陽性です。

出現角度や強さで評価を細分化できるため微細な変化を捉えやすく、日々の変化を追うのに役立ちます。しかし、Pusher現象の有無を評価する上ではSCPよりも劣るためSCPとの併用が望ましいです。. 

姿勢評価

座位で正中位とした際にleg orientationという非麻痺側下腿の傾斜性を確認したり、肩甲骨や体幹・骨盤アライメントなどが崩れていないかなどを確認してみましょう。

上に書いた身体認知はPusher症候群の人にとってこのアライメントが崩れているとさらに傾くという報告がされているものがありました。

つまり、症例によってはアライメント修正するだけでも非麻痺側上下肢の過剰努力が軽減するかもしれません。

垂直性の評価

正確に主観的な垂直認知を評価しようとすると専用の器具を使用する必要があるため、必ずでなくていいと思います。

運動麻痺、感覚障害、半側空間無視の評価

これらの症状が重なるほど現象の消失時期が延びると言われているため予後を検討する上では欠かせません。

詳しくは書きませんが、半側空間無視の評価にはこんなものがあります。

Behavioural inattention test 行動性無視検査日本版

・正中指示課題

Pusher 現象へのアプローチ 

Pusher現象の治療について

Karnathらは

姿勢の認知的歪みを認識することや視覚的垂直認知と身体的垂直認知の関係性を認知し直立姿勢を学習することが重要である

と報告しています。

つまり原則としては視覚的な情報や体性感覚を利用して自身の直立を認識させる内容が有効ではないかということです。

自分は臨床では網本先生の報告を参考に練習内容に反映させていただいています。

座位保持

ベッドサイド:患側骨盤をギャッジアップなどで挙上することで押す力と拮抗し安定化を図る。上肢はオーバーテーブルなどで体幹前方で支持させる。

リハ室:チルトテーブルに腰掛け、足底を離し、患側骨盤を挙上させることから始める。

徐々に足底を接地し健側挙上での保持訓練へと進める。

(初期:健側へ体重支持、後期:患側へ体重支持)

これに加えて、重心移動練習などの動的な課題も有効とされていますね。

あとは個人的に上で記述しているポジショニング!これが結構重要で、骨盤だけでなくて肩甲骨や体幹にも気を配って見てみてください。

徒手的に肩甲骨を挙上するように肘関節を伸展、肩関節を外転・外旋位にするように誘導すると肩甲骨も下制・外転位から改善されます。

そうすると今までが嘘だと思うくらいPushingが弱くなって、人によっては手を離してリーチングもできるくらいになります。全てではないですけどね!

立位

平行棒や台を高く設定する。杖などを側方ではなく前方へ置く。

装具の高さを補高する。

保持が困難な際には、後方から抱えるようにして上肢の支持をなくす。

これに関しては、まずは座位でも言いましたが、ポジショニングをしっかりしてから考えてみましょう。座面全体を補高して立位に移る際の課題難易度を下げますが、さらに麻痺側にタオルなどを詰めて麻痺側骨盤が下制していることに対して補正をします。

あとは起立の介助の際に肩甲骨や上肢を介助して、上肢・体幹の姿勢を補助します。

あとはその方の能力に応じて手すりにしたり、台支持に変えたりと調整します。

大事なのは左の上肢・下肢が過剰収縮を起こしていない、その程度が少ない状態での立位保持をキープしてもらうことだと思います。

歩行

点滴台などを使用し前方へ移行する。または、杖なしでの介助歩行。

麻痺が軽度であっても装具を使用。

僕は杖なし派です。Pusher現象とは関係ありませんが、基本的に歩行練習に関しては杖なしで2動作前方歩行を心がけています。詳しくはまたいつか書きたいのですが、課題特異性とか、CPGとか、膝関節のコントロールを引き出したいとかなどが理由です。うちから直接退院する場合には安全な歩行の獲得を目指しますが、基本的には回復期への転院が大半を占めるため、機能改善を目的とした歩行練習を心がけています。

終わりに

いかがだったでしょうか?

Pusher現象はまだ解明されていない部分が多いですが、このようにたくさんの方が研究されて、その結果が世の中にはあふれています。僕もまだそのほとんどを自分では理解しきっていないので全てを描き切ることはできませんでしたが、この記事が皆さんにとってPusher現象を調べるための最初の手がかりになればと思っています。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

勉強になった方はシェアしてくれたら嬉しいです!

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