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はじめに


理学療法士
学生の頃に教科書に書いてあったような気がしますけど
そんなに大事なんですか?
高次機能障害よりも身体機能とか練習とかについて勉強したいです…
Pusher現象の出現頻度は当院のこの時期の脳損傷全体 (458例)でみると5.2%であり,除外基準をみたした例では25.5%を示した.
網本 和 :Pusher現象の評価とアプロ ーチ,理学療法学23 ll8−121,1996.

引用文献だと4人に1人は
”Pusher現象”を呈している可能性があるようだね!
実際臨床現場においてもよく認める高次機能障害の1つだよ!!
おまけにADLを大いに阻害する症状の1つで
介入自体難渋するケースも結構多いんだ!
Pusher現象の重症例は軽症例と比較し退院時Barthel Indexは優位に低下する.
青木詩子ら:Pusher現象の重症度,経過によるADL自立度への影響,理学療法ジャーナル 33 829−833,1999.
また,早期に改善を示す例が存在する一方で軽度であっても,
この徴候が残存する症例の自立度は消失した症例と比較すると優位に低い.

理学療法士
4人に1人認めるなら頻度としてはかなり高いですね…
それにADLにも影響がでてしまうのなら
僕らもしっかり介入する必要性がありますね
Pusher現象について知識を深める必要性や重要性がわかったでしょうか?
正直、内容としてはかなり難しいかと思いますが、
臨床(特に急性期)に身をおいていれば確実に担当する症例だと思いますので
基礎的な内容だけでも頭に覚え込んでいってください!!
ではまとめていきましょう!!
// /Pusher現象とは?


まずは”Pusher現象”がどんなものなのか
その定義をまとめましょう!!
「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し、自らの非麻痺側上下肢を使用して床や床面を押して、正中にしようとする他者の介助に抵抗する」
Davis PM: Steps to follow. SpringerVerlag,1985.
Pusher現象の歴史はまだ比較的浅く…
Davisが世界で初めて”Pusher症候群”という名で提唱したのが始まりです
当初、Davisは”Pusher症候群(Pusher syndrome)”という名前の通り
- 運動麻痺
- 感覚障害
- 半側空間無視など
これら複数の症状を伴うために”症候群”と記述したそうですが、
その後の疫学調査で症候群とする明確な根拠がなく
この”症候群”という捉え方には論議が生じました。
しかし、臨床的な背景を踏まえた数々の報告で
”一側性に押す”という現象…
つまり、”Pusher現象(contraversive pushing)”が存在することは周知され、
今日まで”Pusher現象”という名で様々な報告がされるようになっています!
ちなみにcontraversive pushingの意味は”病巣側と反対側へ押す”
と表現されます。

理学療法士
ただ、座面を押すだけなら重度の麻痺の方なら誰でも当てはまりそうですけど”Pusher現象”と明確に規定する
定義的なものはないんですか?

もちろんあるよ!!
それには”Pusher現象”の評価スケールである”SCP”というものを使います!!
SCP(Scale for Contraversive Pushing)の項目はこちら!!
大項目 | 下位項目 | 得点 |
---|---|---|
姿勢 (麻痺側への傾斜) | 傾きがひどく転倒する | 1 |
転倒しないが大きく傾いている | 0.75 | |
軽度傾いている | 0.25 | |
傾いていない | 0 | |
外転と伸展 (押す現象の有無) | 姿勢を保持している状態で押してしまう | 1 |
動作に伴い押してしまう | 0.5 | |
押す現象はない | 0 | |
修正への抵抗 | 正中位へと修正すると抵抗する | 1 |
抵抗しない | 0 |

理学療法士
項目自体はシンプルですね!!

測定時の声掛けなどについてはまた別に説明するね!!
”SCP”以外にも評価スケールはあるけど
それらについてもその時一緒に話します!!
脳卒中後にPusher現象が出現するのはなぜ?【Pusher現象の機序・病態】
まずはpusher現象のメカニズムについて考えていきましょう!!
阿部浩明先生はご自身の論文で
垂直を知覚する過程のどこかで 異常が生じていると推察される。
阿 部 浩 明 ,近 藤 健 男, 出 江 紳 一: 脳卒中後のpusher syndrome ─出現率と回復における半球間差異─ 理学54療4法学 第 41 巻第 8 号 544 ~ 551 頁(2014 年)理
と記述していますが…

理学療法士
どうしても気になってしまって次に進めないです〜
垂直を知覚するって何ですか??

やっぱりそれだけだとさっぱりだよね笑
ここからは少し今までの先生方がどのような見解を示しているのかを
文献を引用してまとめてみようと思います
文献を見ていく前に、引用部位に記載されている専門用語について
解説を簡単にしておきます!
下記で引用させていただく先生方はPusher現象についての検証をしていく中で
垂直を知覚するための主観的な評価を使用していますが…
- 視覚的な垂直判断(subject visual vertical:SVV)
- 身体的な垂直判断(subject postural vertical:SPV)
- 触覚的な垂直判断(subject haptic vertical: SHV)
この3つが登場します!
それぞれが私たちが垂直判断をする上で感じている感覚であり、
これらを統合して垂直を判断しているわけです。
それでは、用語の予習も済んだところで文献を見ていきましょう!
Pusher patients experience their body as oriented “upright” when it is tilted 18 degrees to the nonhemiparetic, ipsilesional side. In contrast, perception of the SVV was undisturbed.
Karnath et al:The origin of contraversive pushing: evidence for a second graviceptive system in humans.
翻訳すると…
”Pusherの患者は、非有痛性の病変側に18度に傾けられた時、身体を「直立」に向ける。対照的に、SVVの知覚は乱されなかった。”

視覚的な垂直判断に関しては異常はみられなかったという見解だね
次はこちら!!
Patients with a ‘pushing’ behaviour showed a transmodal tilt of verticality perception and a severe postural vertical tilt.
Perennou DA, Mazibrada G, et al. :pushing and verticality perception in hemisphere stroke: a causal relationship?
”Pushing動作を有する患者は、垂直認知のtransmodal(特異的な感覚入力を統合していく)な傾きと重度の身体的垂直の傾きを示した。”
少しわかりづらい訳になりましたが…
この研究は”pusher現象”を認める患者や姿勢異常を認めない人などを対象にして
SVV、SPV、SHVを評価したものです!

Pusher現象を有している方は”身体的な垂直認知”に異常があるとの見解だね!
一方で…
”視覚的な認知”や”感覚的な認知”に関しては
有意差はなかったようです!!
他にも色々な研究内容が調べると出てきますが、
記事の文字数がとんでもないことになりそうなのでこれくらいにします!!
身体垂直の認知的な歪みは,垂直定位にかかわる視覚・前庭・体性感覚のいずれかの情報入力や,感覚モダリティ間 の統合・処理過程の障害が関与すると考えられている.垂直性に関する知 見 は検証段階にあ る が ,p u s h e r 現 象 の 機 序 は 真 の垂直位と誤った垂直判断との乖離を埋め合わせることに 起因するとの考えが主流である.
藤野雄次ら:Pusher現象の生起メカニズム PTジャーナル Vol.54No.6 JUN.2020
現状だと、このように実際の垂直位と誤った垂直判断との乖離によって
Pusher現象が引き起こされているようです!

垂直判断の中でも特に”身体的垂直認知(SPV)”の影響が重要視されているようだね!!
気になった人はこれらの原文を確認するとより理解が深まると思うよ!!
深田 和浩 , 網本 和 , 藤野 雄次:垂直性とバランス 理学療法ジャーナル52巻9号(2018年9月)
深田 和浩:発症早期の脳血管障害患者における主観的垂直認知の特徴:Pusher現象の有無による垂直パラメータの差異
Pusher現象の責任病変はどこにあるの?


次はpusher現象の責任病変はどこなのかについてです!!
次は脳卒中リハを提供する私たちが
介入前に情報収集をする上で最も重要になってくる脳画像です!
運動麻痺は放線冠や内包後脚といった具合に
脳画像からその損傷の程度を評価しますが…
Pusher現象にもその原因と思われている部分があります!
しかし、原因はここです!と明確に断定されている部位はまだありません。
Pusher現象を引き起こす病変部位は多岐にわたりまして、、、
KarnathやJohhansenら(2005)(2006)は…
✔︎視床後外側部病変とその上部白質
✔︎島後部と中心後回の皮質下etc
これらの部位をPusher現象における”特異的な病変”として報告しています!!
文献はこちら!!
Karnath HO, Johannsen L, et al.: Posterior thalamic hemorrhage induces “pusher syndrome”. Neurology. 2005; 64: 1014‒1019.
Johannsen L, Broetz D, et al.: “Pusher syndrome” following cortical lesions that spare the thalamus. J Neurol. 2006; 253: 455‒463.
臨床現場においては上の病変部との位置関係から
被殻出血、巨大皮質下出血などで認められることが多いような気がします。

理学療法士
んー、じゃあ基本的には
視床が損傷しているかどうかがポイントになってきそうなのかな?

基本的にはその考え方でいいと思うよ!!
視床の損傷を免れた島後部や中心後回の症例は数が少ないようだから
頭の片隅で覚えておくようにしておこう!
Pusher現象に限らず被殻や視床の損傷によって様々な症状・障害が生じます!!
気になった方はこちらの記事でそれぞれまとめているのでぜひ確認してみてください!
少し話が逸れますが
脳卒中病変において
”脳出血”の方が脳梗塞と比べてPusher現象を伴っている場合が多いようです!
出血性病変では、pushing を伴う例が有意に多く存在する
阿 部 浩 明:脳卒中後の pusher syndrome ─出現率と回復における半球間差異─ 理学54療4法学 第 41 巻第 8 号 544 ~ 551 頁(2014 年)

被殻出血や視床出血など視床を損傷しやすい部位に起こりやすいためと考えられそうだね!!
左右の病変でPusher現象の重症度などに違いはでる?
高次脳機能の中には
左右によって症状の”出現頻度””重症度”が変わる
このように教科書などに書かれていることがあります!

学生の中には学校の試験や国家試験に向けて
「この障害は右で~、これは左!」などと
覚えている人もいるんではないでしょうか?
Pusher現象においても
左右で重症度や改善の傾向に違いがあるので覚えておきましょう!!
Sixty percent of the recent stroke patients had an initial inaccurate perception of verticality, and 39% of these patients recovered during the 1st 3 months after stroke. The evolution of VV tilt depended on the side of the lesion (P = 0.01), with better recovery in LL patients. None of the other factors studied affected VV normalization.
Bonan IV, Leman MC, et al.: Evolution of subjective visual vertical perturbation after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2006; 20: 484‒491.
最近の脳卒中患者の60%は、最初の不正確な知覚を有し、患者の39%は脳卒中後最初の3ヶ月間に回復した。
VV傾斜の進展は病変の側面に依存し(P=0.01)、LL患者においてより良好な回復を示した。研究されたそのほかの要因のどれもが正常化に影響しなかった。
The poorer recovery of vertical perception after right-side stroke might be due to the predominant role of the right hemisphere in spatial cognition, and might be involved in the poorer recovery of balance after stroke in RL patients.
Bonan IV, Leman MC, et al.: Evolution of subjective visual vertical perturbation after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2006; 20: 484‒491.
右側脳卒中後の垂直認知の貧弱な回復は、空間認知における右半球の主な役割に起因する可能性があり、R L患者における脳卒中後のバランスの改善が乏しくなる可能性がある。

かなり簡単に説明すると…
”左側病変”によってPusher現象を認めた症例よりも
”右側病変”によって認めた症例の方が
”重症かつPusher現象の消失まで時間を要した”ってことだね!!
注意点としては
この左右左についてもまだ議論されている状態なので
結論づけるというよりは”右側に多い傾向がある”程度に
理解しておくといいかと思います!!
出現率における半球間差異は結論を得たとはいい難く,十分なサンプルを対象として,的確な基準を用い て再調査する意義は高いと思われる.
阿 部 浩 明:脳卒中後の pusher syndrome ─出現率と回復における半球間差異─ 理学54療4法学 第 41 巻第 8 号 544 ~ 551 頁(2014 年)
文献にも書かれていますが、
右側(特に頭頂葉)は空間や自身の身体を認識するための機能が集中し、
それらと体性感覚情報を統合する上で非常に重要な部位です!!
一方で、左側は言語機能が集中していますから…
体性感覚情報と空間・身体認識の統合において右半球の果たす役割は
左半球よりも大きいことが伺えます!!

理学療法士
だから右と左で重症度などが変わってくるんですね!!
とてもよく分かりました!
Pusher現象に用いられる評価スケールとは?

Pusher現象の背景がなんとなくわかったところで
今度はPusher現象の評価スケールについてまとめていきましょう!

はじめに紹介してSCPについても少し触れるよ!!
Pusher現象症例に用いられている評価スケールはこちら!!
- SCP(scale for contraversive pushing)
- BLS(Burke Laterupulsion Scale)
- 4PPS(Four-Point Pusher Score)
- 姿勢(leg orientation・アライメント)評価
- 垂直認知の評価
- その他(運動麻痺・感覚障害・USNなど)

1つずつ簡単に説明していきます!!
- 多くの先行研究で使用されている代表的なスケール
- Baccini et al(2006,、2008)やBabyar et al(2009)によって感度と特異度が検証され,高い測定再現性と妥当性が報告されている
- カットオフ値は各項目が>0点となった場合が一般的
評価項目の内容はこちら!!
大項目 | 下位項目 | 得点 |
---|---|---|
姿勢 (麻痺側への傾斜) | 傾きがひどく転倒する | 1 |
転倒しないが大きく傾いている | 0.75 | |
軽度傾いている | 0.25 | |
傾いていない | 0 | |
外転と伸展 (押す現象の有無) | 姿勢を保持している状態で押してしまう | 1 |
動作に伴い押してしまう | 0.5 | |
押す現象はない | 0 | |
修正への抵抗 | 正中位へと修正すると抵抗する | 1 |
抵抗しない | 0 |
Pusher現象を評価する上ではこれが一番に出てくるかと思います。
Pusher現象に対する治療報告などで引用される数も多いですし、
感度と特異度が検証され,高い測定再現性と妥当性が報告されています。
SCPは上の表のように3つの下位項目からなります!
A:自然な姿勢の対称性
B:非麻痺側上下肢の伸展
C:他動的な姿勢の矯正に対する抵抗
座位姿勢と立位姿勢に分けて、それぞれこの3項目について評価します。
最重度の場合は6点です!!

Pusher現象を評価したい場合には
まずはSCPで評価をするのがベスト!!
一方で、Pusher現象の”回復の変化における敏感度”が低いことが
指摘されているよ!
- D’Aquilaら(2004)が発表
- 姿勢を維持or変えるよう指示された時の患者の運動と反応を評価する
- A:寝返り B:座位 C:立位 D:移乗 E:歩行の5項目
- 受動的な姿勢矯正に対する抵抗の程度や開始するタイミングなどをポイントにする
- 各項目0〜3点(立位のみ4点)で合計17点で重症度を評価
- 合計≧3をカットオフとする事を推奨されている(Bergmann J 2019)
- 測定項目が多く角度測定が必要なため患者や測定者の習熟度が影響する可能性あり

各評価項目をまとめておくよ!!
以下はD’A quilla MA, et al:Validation of a lateropulsion scale for patients recovering from stroke. Clin Rehabil 2004:18:102-109から改変し引用しています!!
丸太様ローリングを行う
- 0=他動的なローリングに対し抵抗なし
- 1=わずかな抵抗あり
- 2=中等度の抵抗あり
- 3=強い抵抗あり
- +1 両方向への抵抗があった場合1点追加
患者の体幹を麻痺側へ30°傾けた位置から正中位へ戻す
- 0=正中まで抵抗なし
- 1=正中まで残り5°以内で体幹・上肢・下肢の抵抗が起きる
- 2=10〜5°の範囲で抵抗が起きる
- 3=10°以上傾いているところで抵抗が起きる
患者の体幹を麻痺側へ30°傾け、そこから正中を越えて非麻痺側へ5〜10°まで戻そうとした時の反応を採点する
- 0=身体重心を非麻痺側下肢の上に乗せるのを好む
- 1=麻痺側から正中を越えて非麻痺側へ5〜10°傾けたところで抵抗が生じる
- 2=正中まで残り5°以内で平衡反応が起こる
- 3=正中まで残り10〜5°の範囲で平衡反応が起こる
- 4=正中まで10°以上離れているところで平衡反応が起こる
移乗を評価する
- 0=非麻痺側への移乗に抵抗なし
- 1=非麻痺側への異常にわずかな抵抗あり
- 2=移乗に中等度の抵抗があるが、1人の介助で可能
- 3=非麻痺側への移乗に重度の抵抗があり、2人介助が必要
正中位にしようとする介助に対する能動的な抵抗を採点する
- 0=麻痺側へ押す現象は認められず
- 1=わずかに麻痺側へおす現象あり
- 2=中等度の麻痺側へおす現象あり
- 3=2人介助が必要、もしくは歩行不可能

詳細など全てを掲載はしてはいないので
気になった方は実際の論文を検索してみよう!!
BLSはpusher現象が出現する角度やその強さで評価を細分化できるため
微細な変化を捉えやすく、日々の変化を追うのに役立ちます!!
一方で、Pusher現象の有無を評価する上では
“感度・特異度ともにSCPが最も優れています!!
そのためどちらか片方を使用するのではなく併用が望ましいです!

理学療法士
数種類のスケールを併用しながら評価するのが良いんですね
- 2019年に論文で発表された
- 主にオーストラリア西部で使用されているスケール
- 評価項目には臥位・座位・立位における一般的なpusher現象(傾きや押し、修正に対する抵抗)が組み込まれている
- 正常・軽度・中等度・重度の4段階で0〜3のスコアがつく
- 他の評価と比べ測定時間が短く(2分程度)で患者の負担も少なく、臨床でのスクリーニングとしての使用に向いている
- 信頼性や有効性についてはまだ研究が少なく検証データが不足している状態
4PPSSは比較的新しい評価スケールのようです!!
今までの評価と比べると
評価項目もシンプルで
臨床においても使いやすそうな印象ですが、
検証された研究がまだ少ないため、
その点については留意しておく必要があります!
興味があれば自身でも検討してみても良いかもしれません!!

ここからは姿勢評価や垂直認知などについての評価を少しまとめていきます!
✔︎姿勢評価
姿勢(特に座位姿勢)を評価する上では以下の点をチェックします!!
- leg orientation(非麻痺側下腿の傾斜)
- 肩甲骨・体幹・骨盤アライメント
座位においては“leg orientation”という非麻痺側下腿の傾斜性を確認したり、
肩甲骨や体幹・骨盤アライメントなどが崩れていないかなどを確認してみましょう。
上で紹介しましたが
Johanssen らの報告において
Pusher現象には特徴的な ”leg orientation ”が観察されると言われています!!
足がつかないような状態で座位保持させ、
体幹を正中にした際の”下腿の傾斜”を観察してみましょう!

今度Leg orientationについては確認してみようと思います!
ちなみにアライメントを確認するとPusher現象に対して何かアプローチできるんですか?
Pusher現象例においては身体垂直認知(SPV)に異常を示しますが
”座位アライメントが崩れているとその身体的な垂直認知が傾いてしまう”という報告がされています!!
つまり、症例によっては座位アライメントを評価した上で徒手的に修正するだけでも非麻痺側上下肢でのPushingが軽減する可能性が考えられます!

つまり、治療にも応用できる可能性があるから座位アライメントを評価するんだよ!
✔︎垂直性の評価
正確にPusher現象例の身体的な垂直認知を評価することは
臨床においても評価の一部として活用することができ非常に有用です!!
一方で専用の器具(座位傾斜装置など)を使用する必要があるため、導入コストなどハードルは少し高めです…

自分の所属している病院や施設にあれば
どんどん活用した方が良いですが
導入していない施設の方が圧倒的に多いでしょうから
ない場合は無理に測定する必要はないと思います!
✔︎運動麻痺、感覚障害、半側空間無視などの評価

これらの症状が重なるほど
Pusher現象の”消失時期が延びる”と言われているから
重症度だけでなく予後予測を検討する上でも欠かせないよ!
半側空間無視については主に以下のような評価が用いられています!
- Behavioural inattention test (行動性無視検査日本版)
- 正中指示課題etc
半側空間無視についてはまた別の記事にします!!
半側空間無視を合併しているとSVVも障害されるため、予後やアプローチ方法を変更しなければいけない可能性があるよ!!
Pusher現象に対する介入・アプローチにはどんなものがある?

Pusher現象の治療についてKarnathらは
姿勢の認知的歪みを認識することや視覚的垂直認知と身体的垂直認知の関係性を認知し直立姿勢を学習することが重要である
Karnath HO, Johannsen L, et al.: Posterior thalamic hemorrhage induces “pusher syndrome”. Neurology. 2005; 64: 1014‒1019.
とこのように報告しています!

つまり、視覚的な情報や体性感覚を利用して自身の直立を認識させる内容が有効ではないかということを提唱しています
また、pusher現象に対する運動療法の目的としては
以下のような点が挙げられています!!
1覚醒水準の向上を目 的とした早期離床
藤野雄次ら:腹臥位によって座位バランスの改善をみたpusher現象を伴う重度左片麻痺の 1 例 Jpn J Rehabil Med 2016;53:401-404
2支持物の工夫による「押させない」状況を確保し,抗重力姿勢を確立すること
3姿勢の崩れを防ぐポジショニングの重要性を理解し,その適用についての介護者などへの説明
4適切な下肢装具および車いすの適用
5静的姿勢保持からよりダイナミックな動作を指向するプログラムの施行による必要なADLへの汎化

理学療法士
色々な点について考慮しながら介入しないといけないんですね…
具体的にはどんなものがあるんですか?

自分の臨床では
以下の書籍や文献を参考に練習内容に反映させているよ!!
網本 和:Pusher現象の評価とアプロ ーチ 理学療法学 第23巻第3号 ll8〜121頁 (1996年)
藤野雄次:腹臥位によって座位バランスの改善をみたpusher現象を伴う重度左片麻痺の 1 例
網本 和:傾いた傾斜性―Pusher現象の評価と治療の考え方
理学療法ジャーナル 2020年 6月号 特集 Pusher現象の謎 「傾き」への挑戦 臨床像と治療アプローチ

介入方法は日々アップデートされていくから
出来る限り情報を更新していく必要があるよ!!
少しだけ代表的な介入方法について紹介していきます!
Pusher現象に対する介入例その①座位保持練習
ベッドサイド:患側骨盤をギャッジアップなどで挙上することで押す力と拮抗し安定化を図る。上肢はオーバーテーブルなどで体幹前方で支持させる。
リハ室:チルトテーブルに腰掛け、足底を離し、患側骨盤を挙上させることから始める。
徐々に足底を接地し健側挙上での保持訓練へと進める。(初期:健側へ体重支持、後期:患側へ体重支持)
網本 和:Pusher現象の評価とアプロ ーチ 理学療法学 第23巻第3号 ll8〜121頁 (1996年)

これに加えて、
重心移動練習などの動的な課題も有効とされているよ!
全ての肢位において言えますが…
ポジショニング
これが結構重要で、
骨盤や肩甲骨、体幹さらには頭部の位置にも気を配って観察してください!!

肩甲骨を挙上するために肘関節を伸展、肩関節を外転・外旋位にするように誘導しながら介助すると肩甲骨の不良肢位(下制・外転位)は改善しやすいよ!!
場合によっては枕や三角マットなどの物品や支持物を検討して
良好な肢位を保てるようにポジショニングしましょう!!
場合によっては自分の体も最大限活用します!
Pusher現象に対する介入例その②立位保持練習
平行棒や台を高く設定する。杖などを側方ではなく前方へ置く。
装具の高さを補高する。
保持が困難な際には、後方から抱えるようにして上肢の支持をなくす。
網本 和:Pusher現象の評価とアプロ ーチ 理学療法学 第23巻第3号 ll8〜121頁 (1996年)
これに関しては、
まずは座位と同様、ポジショニングをしっかりしてから考えてみましょう!!
自分の場合は立位を取る前の段階
つまり座位から姿勢を修正してから立位へ移行します!

骨盤アライメントの修正や起立の課題難易度を下げるためにマットなどで座面を高くし、麻痺側にタオルなどを詰めて麻痺側骨盤が下制していることに対して補正をしたりします!!
体幹や肩甲骨などに対しても観察しながら必要があれば修正するよ!
あとはその方の能力に応じて手すりにしたり、台支持に変えたりと調整します!!
大事なのは左の上肢・下肢が過剰収縮を起こしていない、その程度が少ない状態での立位保持をキープしてもらうことだと思います。
臨床的には身体を壁に付けるなどして恐怖感を軽減させたりするのも効果的です
Pusher現象に対する介入例その③歩行
・点滴台などを使用し前方へ移行する。または、杖なしでの介助歩行。
・麻痺が軽度であっても装具を使用。
網本 和:Pusher現象の評価とアプロ ーチ 理学療法学 第23巻第3号 ll8〜121頁 (1996年)
今までと同様で
まずはpusher現象が生じづらい環境を作り出せるように工夫をしましょう!!
- 支持物は何か
- 装具は何を使うか
- 歩行様式はどうするか
- 介助方法はどうするか
- 鏡などの視覚的なフィードバックは必要かetc
これらについて常に考えながら歩行練習を行います!!
脳卒中リハにおいて理論的には
杖なしで2動作前型での歩行がCPGの賦活に有効だと言われていると思いますが
新人のセラピストの皆さんに最も重要だと考えて欲しいのは…
- 綺麗な抗重力姿勢が取れているか
- 代償動作が強くおきていないか
- 麻痺側立脚期に十分な体重移動を姿勢を崩さずに行えているかetc

つまりは、理想の型に流されずに良好な姿勢や適切な筋出力を保ったまま歩行できるように介助できているか・環境や歩容の設定ができているかについて常に確認しておいて欲しいです!!
これは、pusher現象だけではなく脳卒中リハ全体においても言える事です!
新しい治療法や介助方法を学んだときにはついつい試したくなると思いますが
上で紹介していることをベースに考えながら介入するのが最も効果が出やすいと僕は考えています!!
Pusher現象に対する介入には他に…
腹臥位療法や
最近だと側臥位での治療効果も発表されるようになってきています!
まとめ

どうだったかな?

理学療法士
今までPusher現象については何にも知らなくて、
どんな介入が有効なのかも分からず
ただひたすら介助していたんですが、
今回まとめてみたら少し冷静にこの現象と向き合える気がしました!
Pusher現象はまだ解明されていない部分が多いですが、
このようにたくさんの方が研究されて、その結果が世の中にはあふれています!!
僕もまだ自分でも理解しきっていない部分がありますので
全てを紹介することはできませんでしたが、
この記事が皆さんにとって
Pusher現象について調べるための最初の手がかりになれば幸いです!!
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今回は高次機能障害について!
最近話題の”Pusher現象”についてまとめていきます!!